Story\

□朝陽の中にて眠りしは
1ページ/1ページ

僅かな重みを感じて目を開けた。
瞬間視界に飛び込んできたのは僅かな藍色を残して、目眩い黄金から燦めく白銀へとグラデーションする夜明けの空で、私は思わず息を飲む。
初めてでは無い。
夜明けなど何度も目にして来た。眠れずに戦々恐々と過ごすあの広い城の寝室の窓。隔たれ曇った硝子の向こうに見た明るみ。
けれどあれは、これ程美しかったことがあっただろうか。
何処までも視界一杯に広がる空に私は言葉を奪われながら、浴びせられる温もりを感知する。それは何かと思った途端に、朝陽の熱だと身体が答えた。
心地好い熱が全身を、身体の芯から隅々までを覆っている。
溜息を吐きたくなるほどの充足感が、何やら非難めいた言い方にはなるが、否応無く私の全てを襲っていた。
日が昇ってゆく。
朝陽が世界を再生する。
段々と夜は押しやられ、空の色は見慣れた青へと変わり始めていた。
「……ん、」
ふと、私が目覚める切っ掛けとになった重みを思い出した。
微かな声が聞こえた方に目を遣れば、私に寄り掛かり酷く不安定な体勢をした幼い寝姿が目に入る。
その上に、薄い肩と細い腕は私の半身に添う形で、窮屈そうにかっちりと縮こまっていた。
私は寝息が途切れないように、朝陽で銀色にきらめく彼の長い前髪をそっと指先で掻き上げる。現れた寝顔は子供らしからぬ硬いもので、私は自分の眉間に皺が寄るのを感じる。
「……ぅ、ん…………」
次の瞬間、前髪に触れたせいか、きつく結ばれた口唇の隙間から小さな声が漏れると、不安定だった身体は不意に私の半身からぐらりと離れ、固い地面のみの後ろ側に揺らめいた。
「!アレッ、」
慌てて背中と地面の合間に手を差し入れ、倒れた身体を抱き留める。きゅうと萎縮したまま眠る肢体は、思った以上に軽く細いと頭の何処かで思う。
「……アレン?」
明らかな無反応に声をかければ、すう、と変わらない寝息がその眠りを知らせた。ほっとして、ゆっくりと元の角度まで抱き起こす。
しかし、上半身のみを無理に捩った姿勢のままでは、腕を貸し与えた当初の体勢に戻すことは難しい。私はそれが苦にもならないほど軽い身体を支えたまま、少しだけ思案した。
そうして、支えていた上半身をそっと腿ヘと倒すように寄せた。
頭と首は腕で支えたままだが、互いの姿勢に無理は無く、これならば寝息も乱れまいと思える形だった。
「……固い布団で、申し訳ないが」
腹周りにマントの端を被せながら、閉じられた瞼に言い訳をする。寝息は健やかだ。
腕の中に見える表情は先程よりも若干ながら和らいだように思え、私は許しも得ずに、彼の柔らかな頬を二度撫でた。

fin


後書き

イチャイチャしてんじゃねーよ(´・ω・`)


write2009/9/22
up2009/9/22

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ