StoryV

□sHriEcK
2ページ/3ページ



此処は何処なのだろうか。
彼等は何を思ったのだろうか。
私には理解できなかった。
私の前に立ち、私の方を見て。
(何か用であるか)
私がそう尋ねると、彼等はお互いの顔を見合わせて、至極無邪気に笑った。
(私は、行かなければいけないのである)
そう言って、踵を返してもまた目の前には彼等がいる。
そうして、なのに彼等は私に声をかけるでもなく、互いに笑い合っている。
(帰してほしい)
二、三度繰り返した後そう言うと、彼等はこちらに振り返った。

見開かれた目。

そっくりな顔。

繋がれた両腕。

((僕たちと行こう))

彼等は寸分の違いも無い声でそう言った。
私は首を小さく振る。
(私は行かなければならない所があるである)
そう、行かなければいけない。

『―――クロウリー』

あの者達の元へ、行かなければいけないのだ。

(済まないが、行かなければ)
彼等にそう言って、私は回れ右をする。
そこにはまた彼等が立っていたのだけれど。
(帰して―――)

((どうして?))

ぐにゃりと、周囲が歪んだ。


「化け物!!」
「化け物だ!!」
気が付くと私は飛び交う石つぶてを受けつつ駆けていた。
「帰れ!」
「帰れ帰れ帰れ!!」
罵声と石に逐われるように、ただ城を目指して必死で駆ける。
苦しくて、悲しくて、分からなくて。
(これは、記憶)
走る私の耳元で、彼等が笑う声がした。

((誰も、あんたを求めちゃいない。
誰からもあんたは必要とされない))

城に着くと、そこには祖父が立っていた。
「また、村へ下りたのか」
苦々しげにそう言って、背を向ける。
去っていく背中に、私は拒絶される。

((あんたは孤独だ。
あんたは理解されない))

入れ代わりに、彼女がやって来た。
私に気付くと、慌てて駆け寄って来て土をはらう。
「アレイスター様…どうなさったのですか」
私が答えようとすると、彼女は既に砂になっていた。

((あんたは誰とも交われない。
誰かと共には生きられない))


((だから、僕たちと行こう))

気が付くと、元の場所に立っていた。
彼等は笑ってこちらを見ていて、さっきの出来事はまるで嘘か夢のようだ。
(……何故)
私が漸く口を開くと、彼等は不思議そうに首を傾げた。

((なんで?))

((だってあんたは一人だろ?))

((だったら自分しかいないだろ))

((自分自身しか理解できないだろ))

((だったらもう一人の自分を作ればいい))

((僕たちと行けばそれが出来る))


((だから、行こう))


彼等は笑って私に手を差し出した。
その顔はその腕は互いに全く違い無い。
繋がれた手は見分けがつかない程に交わっている。
私は右手を持ち上げた。

『―――クロウリー』
『クロウリー』
『クロちゃん』

そして、持ち上げた右手をゆっくり戻した。
(やはり、行けないである)
あの者達の所へ行かなければならない。
例え、私が誰にも理解されないとしても。
(私には、理解してやりたい者達が居るのである)
あの者達を。

((馬鹿だな))

((結局は、一人ぼっちなのに))

彼等の手が下ろされて、彼等の顔から笑顔が消える。

((もうおっさんなんて知らない))

彼等は手を繋いだまま反対を向き、そのままスタスタと歩いて行ってしまった。
私もやはり回れ右をし、彼等とは逆に歩き出す。
(まだ間に合うだろうか)
あの者達に追い付かなければ。



戻らなければ。



    
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ