駄文

□すれ違う視線(面あた)
1ページ/1ページ


 「面堂…お前、俺のことが好きだろ…?」
 突然、目の前の男が、薄笑いを浮かべながら振り向き様に言った。
 何を急に…と困惑しながらも、あたるの挑発的な笑みに憤慨した面堂は、ピクッと形の良い眉を上げ、
 「戯言を…。貴様…よほどこの僕に殺されたいらしいな…。ラムさんやしのぶさんのような美しい女性にならともかく、何故、このっ僕が、男の、しかも貴様などに惚れなきゃならんのだっ」
 と、怒りの形相で噛み付いた。

 あたるは、面堂のそんな態度に安心したかのように、頷くと、
  「やれやれ…。素直じゃないな…」
 と、ワザと大きくため息を吐いた。

 「何を…」
 面堂は、あたるの言葉の意図がわからず、苛々した表情であたるを見下ろし、睨みつける。

 こうして2人並ぶと、どうしても面堂より背の低いあたるは、面堂を見上げるかたちになってしまう。
 深い沈黙。絡む視線。面堂の瞳が困惑に揺れている。

 ふいに、あたるはグイッと面堂のシャツの襟元を掴んで、自分の方に引き寄せた。
 「なっ、何をするっっ。」
 戸惑い、焦る面堂に、ニヤリっと悪質な笑みを浮かべたあたるは、
 「他人のことは気になって仕方ないくせに、自分のことには鈍感なんだな」
 そう言って、襟元を掴んだ指に力を込め、ぐぐぐっと引き寄せると、面堂の唇に自分の唇を重ねた。
 それは一瞬触れるだけの、色気もなにも無いものだったが、面堂は身体に走った甘い疼きで体温が上がっていくのを感じていた。
 
「…いいだろう。そういうことなら…こっちは気付かなかった、ってことにしといてやるよ」
 あたるは、面堂からさっと離れると、視線を逸らして遠くを見ながら言った。
 そして、口元を抑えて茫然としている面堂を見て笑いながら、
 「これからは…あんまり…俺を見るなよな。…お前に睨まれると、ど〜も落ち着かん。ど〜せ見るなら、お前がさっき言とったラムやしのぶみたいな、美しい「女」、にしとけ」
 そう言葉を残し、足早に去って行った。

 背中に面堂の視線を感じながら…。


 視線を感じると、いつもそこに面堂がいた。
 何か言いたげに、熱い視線で自分を見つめる面堂…。
 あたるの視線に気が付くと、さっと視線を逸らし、何にもないような態度を見せる。
 …あんなに熱の籠もった瞳で人を見つめといて…気付いていないとは。
 何だかほっとしたような…気が抜けたような…自然、口元が緩むあたるだった。

 明日からは、すれ違う視線に苛々しなくて済むだろうか。
 



   END
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ