駄文

□唇泥棒(テンあた)
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 あ…また…だ。

 もう何度目になるかわからない。

 休日の昼下がり。
 横になって寝てる俺の唇に、そっと触れてくるやわらかい温もり。

 躊躇うように…掠めるように…俺の唇を盗んでいく。

 まったく…。
 バレてないとでも思ってんのかよ?

 こんな稚拙なキス。
 誰かなんて目を開けなくてもわかる…。
 無断で俺の唇盗むとは、不届き者め!!

 けど…思いのほか真剣みたいだから黙って許してしまっている。

 俺も案外、夢想家なのかもしれない。





 10年後〜

 何故か、アイツとベッドの中。
 一人暮らしを始めたアイツに誘われて…気付いたら抱かれていた。
 もとより、そういう行為を期待してなかったワケではなく…。
 寧ろかなり期待していた。
 少しダケ躊躇して…あとは恥ずかしいほど欲のまま乱れた。

 コイツには…素の自分を見せても平気なんだ。



 「…起きたん?」
 優しい腕が俺を抱き寄せる。黙ったままでいると、不意にヤツの手が俺の下肢を撫でた。

 「…っ…触んな…」
 身じろぐ俺を制するように、尚も触れてくるヤらしい指。
 「もっかい……あかん?」

 冗談じゃない!

 俺は這い回る指を停止させるべく、秘めていた言葉を発した。

 「…おまえ…ちっさい頃から、寝てる俺に無断でキスしてただろ」
 途端に固まる指。

 「や…あの…なんで…?」
 慌てふためく確信犯。

 笑いながら俺は言ってやった。

 「おまえの拙いキス…ちょっと楽しみだったんだ」
 「寝たふりしとったんかいっ!!」
 怒るヤツに一言。

 「怒るなよ。唇泥棒のクセに」

 顔を真っ赤にして俺を睨む姿は、ちっさい頃と一緒で…。
 可愛くて思わず…チュッとキスしてしまった。

 再び俺に触れてくる指に笑いながら…あの頃とは違う大人のキスをした。




   END
 

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