駄文

□噂のあたるちゃん
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 「コレ着けてないと、胸が邪魔で体育出来ないっちゃ」

 そう言って、「止めんかっ!!!!」と声を荒げるあたるを電撃で押さえつけたラムは、躊躇なくパジャマを脱がして半ば強引にブラジャーを付けた。

 「ぴったりだっちゃ」
 「……………」

 違和感にじわっと汗が出てくる。今まで無防備だった上半身に、慣れないモノを装着するのにはかなりの抵抗があった。

………気持ち悪い。

 「おい…俺は別にノーブラで構わんのだが…」
 「何言ってるっちゃ!ノーブラで体育やるなんて無謀だっちゃっ」
 「ん…?」
 「今のダーリンは女なんだから、男がダーリンの胸狙って来たらどうするっちゃ?」
 「ない。ないっ!!そんな気持ちの悪いこと誰もするもんか」

 …と嘲笑うあたるを、ラムは思いっきり抓った。

 「いでででっ!!何をするっ!!」
 「笑ってる場合じゃないっちゃ。心配してあげてるのにっ!!」
 「おまっ…アホか!身体はオンナでも、俺のままなんだから、そんなコトするヤツいるワケないだろっヘンタイじゃあるまいし」

 そう言ってあたるは、即座にブラジャーを外した。締め付けられた感じが非常に耐え難く、何とも嫌な気分になったからだ。

 「もうっ!!知らないっちゃよっ!!」

 ラムが心配するのには、別のところの意味合いもあったのだ。

 女好きで男嫌いのあたるだが、女にはちっとも相手にされないのに、男からは意外と支持率がある。
 何かというと中心になって騒いでいるのも、何もあたるが望んでのコトではない。周りがあたるを中心にと駆り立てているのだ。
 悪く言えばいいように利用されているのだが、逆に考えると、意外と信頼されているのではないかと思う。
 密かに頼られているのだ。

 本人は照れ屋で意地っ張りだから完全否定しそうだが、あたるは根が優しく、寛容でもある。
 その証拠に、あたるはクラス以外の男からも気軽に名前で呼ばれているが、気安く名前で呼ばれるコトに何ら抵抗感もない。
 突然押し掛けてきたラムやテンを、文句を言いつつも受け入れてくれているし、ラムの出現で恋人だったしのぶとは疎遠になったというのに、ラムを責めるワケでもなく、しのぶを責めるワケでもない。
 だからか、あたるがしのぶにちょっかい出すのを目前にすると、ラムは言いようのない不安に駆られる。
 元々付き合っていたのだから、双方が再び熱くなってもおかしくないからだ。
 竜之介としのぶのデートを阻止する為に、しのぶとデートしたがるあたるを邪魔したのも、迷子になったキツネがあたるに声を掛けてきて、しのぶの家までキツネを送るのにラムも付いて行ったのも、あたるをしのぶに奪われないか不安で仕方なかったのだ。

 何故なら…あたるは常に無防備だから。
来るもの拒まず、と言えば聞こえが悪いが、優しさ故に冷たく出来ないでいる節がある。女の泣き落としにかかると多分、焦ってうろたえて放っておけないだろう。
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