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お礼にTOVレイヴンの小話をどうぞ。
■朝のひとコマ
魚を炙る香ばしい匂いが、朝の寝室に忍び込んできた。
「なあに、いい匂い」
匂いに釣られてベッドから這い出し、最低限の身支度だけ済ませてキッチンに顔を出してみると――世にも珍しい光景があった。
「……な、何やってんの、レイヴン」
彼と一緒に暮らすようになって幾年月。
彼がエプロンなんて身につけて立ち働いている姿を目撃するのは初めてのこと。
「何って、朝食作ってみたんだけど」
――これは何だ、天変地異の前触れか。今日は昼から槍の雨でも降るに違いない。
思ったら顔にも態度にも出ていたらしい。
「ちょっと、なんつー顔してしかも後ずさってんのよ!」
失礼な! とレイヴンが不服げに口を尖らせた。
「おっさんが料理するのがそんなに珍しい?」
「うん。……ていうかそもそも、レイヴンって料理できたんだ?」
「そりゃあ最低限はね。俺だって独り身が長かったし」
最近疲れ気味な彼女のために朝食作るくらいわけないって。
さり気なく装ったその言い方のその言葉が、こそっと胸をくすぐった。
「……ありがと」
「さあさ、冷めない内に食べましょ」
言いつつ椅子を引いてくれるので、素直に従って腰を下ろす。
食卓に乗っている料理はどれも好物ばかりで、量も丁度よく、まだほんのり湯気が立っていた。
眠気覚ましのコーヒーにも、好みに合わせてミルクだけ添えられている。――最低限、というには随分と手際がいい。
いただきます、と料理に箸をつけてみると、お味の方も完璧だった。
「すごい、美味しい」
「そーお? そりゃ、お粗末様で」
向かいの席に着いたレイヴンは、目が合うと片目を瞑って微笑んだ。
細かな気配りが女の子にモテるコツなのよ――なんて、彼は以前に酒席で内情をぶっちゃけていたことがある。
こうして実際目の当たりにしてみると、確かにこれはちょっとぐっと来るものがあった。
気配りされて悪い気はしないし、料理は美味しいし、おっさんの癖にお茶目な笑顔は可愛いし。
――でも。
でもね。なんていうかね。こう細かいところで完璧すぎると……
「……お嫁さんに欲しくなる」
せめてお婿さんにしてよ、と差し向かいの席でレイヴンが苦笑した。
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