小説置き場

□夢現の食事。
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「兄さん!僕あれが乗りたいです!」

「はいはい。」

「現兄さん、今度はあれ乗りましょう!」

「うんうん。」


今日は夢と二人、住んでいる処の一番大きな遊園地に来ている。
休日ということもあってか人も多く、離れないようにと手をつないでいたものの、それが大きな仇となる、
最初は映画とかのほうが...なんて零していたくせに、一度乗り物へ乗ってしまえば調子づいてきたのかこのテンション。まるで別人。

双子で便利だったのは、手をつないでても、いくら近づいてても、「仲良い双子ちゃんだね」で済むことぐらいか。
我乍ら少し後悔していた。まさかこんなにもいちゃつけることがないとは。

「兄さん、もう夕方ですね。」

「そうだな。」

軽く休憩しよう、と二人で飲み物を飲んでいる時、俺は携帯を一人で弄っていた。

「兄さん」

「...」

「兄さん?」

「ん、あぁ?ごめん、どうした夢」

lineを返すのに夢中になっていれば、夢に返事するのすらを忘れてしまっていた。
夢の頬は軽く膨れ、俺に対して疑いの目をむけているも、すぐさま俺の手を引き、この遊園地で一際目立っている装飾が施されている乗り物を指さした。

「あれのろ、現兄さん。」

「観覧車?...ロマンチストだな、お前。」

「なんでもいいでしょ、ほら..」

手を引かれるがまま。出る際に、数メートル離れたごみ箱にジュースの空きカップを投げいれれば俺もまた走り出した。

夕方、だからか、夜景を見降ろそうとカップルが並ぶ中、俺達も並んだ。意外とすんなり進み、ファンシーな絵柄の描かれた台に乗り込んだ。

「兄さん、みてみて、きれいだね。」

「嗚呼..」

生憎夜景など興味はなく、携帯を弄ろうと取り出したその時

「ぼっしゅう、です。」

「は?」

「僕のこと見てくれない現兄さんはキライです。」

彼の鞄の中に収められてしまえば溜息をつくしかない。

「返してくれないのかなー、夢くん。」

「だめ。」

「意地悪な夢くんには意地悪しちゃおっかな。」

こんな個室同然の場所で、夢に逃げ場などあるわけがなく。

最初から逃げないのはわかってはいるが。

腕を掴めば顔をギリギリまで近づける。

「いいの?」

そのまま滑るように耳元まで口を寄せればわざと息が吹きかかるように問いかければ。

「 .. ん、.. いい。」

なんていう甘ったるい夢の声が聞こえてきた。
軽く口づけを交わし、耳に舌をはわせたりと遊んでいれば、直ぐに下へとついてしまった。

息を荒げ、微妙に崩れた胸元が凄くそそられるが、人前だと自分を抑制し、「そろそろ帰ろう」なんて出口へ歩いてると、夢が気になるものを見つけたのかまた手を引かれる。

「ね、あれ、」

指の先に見えるものは"二人の愛を試します"などと書かれた怪しげな建物。

そこだけ別次元のように感じ、人気も少なかった。

「...入ってみようぜ、夢」

「え、あ、うん...でも...」

俺が切り出せば、戸惑ったように俺を見る夢。

「そんなに俺達の愛って薄い?」

「ち、ちがうよ ... なんか怖くて」

「大丈夫だって、アトラクションだろ。」

なんて怖がる夢の手を引いて、その建物へと入っていく。





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