なっがい夢
□イル式ローマの歩き方part2
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夕食は、名無しさんのリクエストで、
『前にイルーゾォが連れていってくれた店がいいでーす!』
ということになり、二人はタクシーで前と同じ共和国広場、ローマ三越付近に到着した。
しかし、夕食にはまだ少しだけ早い。ので、これも前と同様、共和国広場からフィレンツェ通りの周辺を少しぶらついて時間を潰すことにした。
名無しさんは前のようにイルーゾォの腕を引いてはくれないが、久しぶりのお出かけにはしゃぐ名無しさんがイルーゾォを連れ回す形は変わりない。
(……元気だなぁ……俺がいても楽しいのか………よかった。)
イルーゾォはそれに文句どころか、微笑ましい、幸せな気持ちで付いて回っていた。
と、先を歩く名無しさんが一件の店の前で立ち止まる。
『このっ、この店に!行きましょう!』
「……あぁ入ろう入ろう……ん?……ここは……」
名無しさんが鼻息荒く指さす店は、前にブレスレットを諦めた、あの店だった。
『前にここでめっちゃ気に入ったやつあったんですよ!』
「へぇ……そっか……」
今日はお金も持ってきたし!と息巻く名無しさんに、
イルーゾォは咄嗟に視線を逸らし、とぼけた。
もちろん名無しさんがめっちゃ気に入ったやつが何かを知っていた。むしろ持ってる。言えないけど。
イルーゾォの複雑な心境など知らない名無しさんは店内に入ると、ズイズイと、ブレスレットがかかっていた場所に向かっていった。のだが。
『あれ……?ない……』
「………………………………」
名無しさんの目当ての、例のブレスレットは、なくなっていた。もちろん、他の棚を探してみても無かった。
あの時はまだ後ろに5、6個並んでいたのに。
アルバイトの夢は叶わなかったものの、リゾットから貰う家政婦の賃金で買おうとしていたのだ。
『へへへ……モタモタしてたら売り切れちゃいました……』
名無しさんは笑いながらも、しょんぼり肩を落とした。
「……………………そっか……」
イルーゾォも悲しそうにそれだけ言った。
なんて言えばいいのかわからなかった。買ってあるからあげるよ、とも言えず……自分が買った意味がなくなるので、売り切れてて良かったかも、なんて思う嫌な自分もいる。
いや、自分が買わなかったら今日ここで名無しさんはあれを自分で買えたかもしれない。渡す勇気もないくせに、自分が買ってしまったから…………
「……ごめん。」
『ええっ?!なんのごめん?!』
なんで謝られたのかわからないが、イルーゾォの悲しげな表情に、名無しさんは慌てて取り繕う。
『あああ、そうだ!いつかまた入荷するかも!そのうちまた連れてきて下さい!』
「……うん……」
取り繕っても、イルーゾォの表情は晴れない。
『う、……うーん、そろそろお腹空いたなー?……ご、ごはん、行きません?』
「…………わかった」
なぜイルーゾォがそこまで凹むのか名無しさんにはわからない。
イルーゾォは浮かない顔のまま、体を横に捻り、名無しさんの通り道を作った。その間をしょんぼり顔の名無しさんが通って店の出口へ向かう。
ふと、イルーゾォが奥のレジのほうを見ると、あの時の女性店員が不思議そうにこちらを見ていた。まるで、「まだ渡してなかったの?」とでも言いたげに。
(……あぁそうだよ、まだ渡してないよ……ほっといてくれ……。)
あの店員さんがプレゼント包装してくれなければ、もう少し渡しやすかったかもなぁ、なんて。
負のスパイラルにハマリかけているイルーゾォは八つ当たりに近い事を考えた。