なっがい夢
□イル式ローマの歩き方part2
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浮かない空気のまま、てくてく歩いて名無しさんとイルーゾォは、例の、おいしいパスタの店にやって来た。
前回のデートと全く同じコースだが、こういうのも悪くない。
名無しさんは前回のように、客の居ない店内の壁に掛かった黒板のメニューから、今度はカルボナーラを注文した。
『イルーゾォは何食べるんですかー?』
「………なんでもいい。名無しさんが決めていいよ………………」
『えー……そんな。……じゃあ……この、渡蟹のトマトクリームでいいすかー?』
「あぁ………」
しかし、せっかくの夕食になってもイルーゾォの顔色は悪いままだった。イルーゾォは腕を組んだまま、ちらりとメニュー見ただけで、また視線を落とした。
『むー……じゃあ、カルボナーラとこの渡蟹のやつと、お水をお願いしますー』
名無しさんの注文に、店主はかしこまりました、と言うと、テーブルのろうそくに火を付け、店の奥へ消えた。
(私またなんかやっちゃいました?)
店主を見送ると、名無しさんは首を捻った。やはり名無しさんはイルーゾォが何に落ち込んでいるのか分からなかった。
自分が何かしてしまったのか?と、最近イルーゾォと接触があった時の事を思い出してみる。
(ん……?そういえば……)
一つ、思い出した。
少し前、イルーゾォは、メローネにすごく怒っていた。名無しさんに何したんだ!って。
もしかしたら、思い出し笑いならぬ、思い出し怒りかもしれない。イルーゾォならあり得る。
『あの……!イルーゾォ……!』
「…………ん?」
名無しさんが真面目な顔でイルーゾォに声かけた。その名無しさんに珍しい真剣な声イルーゾォも顔を上げる。
『…………もしかして……メローネの事怒ってるんですか?』
「…………へ っ…!…………………はっ…?…えぇっ?!!!……ハァッ……ハァッ!……なっ!何っ?!…何だって?!」
『えっ?!何何?!落ち着いて?!』
イルーゾォは目を見開き、口をパクパクさせた。動悸がする。多分人生で一、二番を争うほど取り乱している。
名無しさんも名無しさんでこんなに動揺した人は見たことないので驚いた。
「お先にお飲み物です。どうぞ。」
動揺しきっている二人の前に、あの物静かな店主が、注文した水を置いた。
店主は顔色一つ変えない。接客業の鑑だ。
二人は置かれた水を、ほぼ同時に、一気に煽った。