なっがい夢
□イル式ローマの歩き方part2
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「プ……ハァッ……で……なんだっけ……?」
イルーゾォは空になったグラスをテーブルに置いた。手ににじみ出て来た汗のせいで思わず勢いがついてしまい、ダンッ、と音がした。
『い、いやだから、こないだのメローネの……すごい怒ってたから、まだ怒ってるのかなぁーって……』
「…………んんん…………」
不安そうな名無しさんに、イルーゾォは言葉を濁した。
確かにメローネの事は気分が晴れきらない最大の理由だったが、さっきまでのイルーゾォは、ブレスレットが売り切れていたことを、それを名無しさん渡せていないことを悩んでいたのだ。
あまりに核心に迫った質問に焦った。
『…やっぱ…怒ってるん…すか…?』
「………………っ」
名無しさんの潤んだ瞳がイルーゾォの思考を鈍くさせる。
イルーゾォは一呼吸置いてから、名無しさんを見据え、口を開いた。
「何があったか知らないけど。…怒って……る。」
もちろん、怒っているのはメローネに対してだ。名無しさんが何を勘違いしているのか知らないが、とりあえずメローネの件に便乗することにした。
イルーゾォの「怒っている」の言葉に、名無しさんの眉は八の字に下がる。
『やっぱり…そうでしたか……でもあれは私の不注意でもあったんですよ……すみません』
「……………………!」
便乗したはいいものの、 名無しさんの反応にイルーゾォの胸は締め付けられるように苦しくなった。
名無しさんのこの様子だと、あの時やはり、メローネと名無しさんに何か良からぬ事が起きていたのだ。
(でもなんで……なんで名無しさんが謝るんだ……)
あの時のメローネには参りましたよー、ぐらい言ってくれたら、まだ気持ちは落ち着いたんだろう。でも#NAME1##が謝ったら、名無しさん自身がメローネを認めてしまったみたいだ。
(……すごく嫌だ。)
この気持ちがなんなのか、わかってる。
嫉妬だ。
「……………謝るってことは……知ってるの?」
『へ?』
「……俺が怒った理由を……知ってるの?」
自覚してからは、早かった。募る嫉妬から、仄めかすのような事を言ってしまったが、言ってしまった後に、イルーゾォの顔色はみるみる青くなっていく。
「あ……いや……その」
つい、口から飛び出した言葉を、もう回収することはできず。
イルーゾォは名無しさんの視線から逃げるように、苦い顔を背けた。
(むむむ……!……なんで怒ってるか……!?)
名無しさんは、 イルーゾォが顔を背けているのをいい事に、深く眉間に皺を寄せた。
昔から、先生や先輩なんかに、「なんで怒られてるかわかってるの?」と聞かれて答えられず、余計に怒られたりすることが多々あった。
怒ってる人には、よくわからんがとりあえず謝る。
悪気はないのだが、名無しさんの悪い癖だ。