なっがい夢

□イル式ローマの歩き方part2
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なんでイルーゾォは怒っているのか。
名無しさんは少ない頭の機能を回転させていた。が、やはり機能の問題で、どんなに考えてもわからない。


(…………ヤキモチ……?いやいや、それはないですよねー…。うーん。)


……わかっていそうでやはりわかっていない。そんな考えを巡らせながらも、名無しさんの鼻に、トマトソースのいい匂いが入ってきた。



「カルボナーラと、渡蟹のトマトクリームスパゲティでございます……」

いい匂いはすぐ後ろからしていたようで、店主が二人の前に注文したスパゲティを置いた。


『……冷めちゃうから、とりあえず食べましょうよ。』


「うん……イタタキマス……」


『(惜しい……)……いただきます……』


イルーゾォは眉を下げたまま、置かれた皿にペコリと頭を下げると、スパゲティをフォークに巻き付けた。
名無しさんは、日本語でいただきますを覚えたイルーゾォを少し可愛いと思った。


(ん……?)


そういえば、前から、イルーゾォは、他のメンバーと比べて教えた事や話した内容を細かく覚えている。特に好きな食べ物とか。好きな色とか。

気付かれにくいが、イルーゾォは名無しさんの事を、チームの中ではかなり気にかけてくれていた。

それは、一体、イルーゾォが自分をどう思っているということのか。



『………………んあっ。そうか。わかりました!』

「うわっ、何?……びっくりした……」

『イルーゾォが怒ってる理由!』

「えっ……」


急に大きな声を出した名無しさんと、その話が流れていることを期待していたイルーゾォは、ビクッ!と体を揺らした。


「そっか……うん……」


フォークを止め、苦い顔で、話を聞く体勢になる。告白まがいの、自分の気持ちを仄めかすような事を言ってしまった手前、どんな言葉が飛び出すのか、少し緊張しながら名無しさんの口元に集中した。



『危ないから、武器庫でふざけちゃだめだって事っすよね!メローネも私も!』

「え?」


名無しさんは晴れやかな顔で言い切った。結局、イルーゾォがあの時自分を後に庇ったのも、メローネにブチギレたのも、全ては武器庫で起こりうる危険から、イルーゾォが自分を守ってくれようとしたんだと、解釈したのだった。



『私知ってますよ、何気イルーゾォが私のこと、いつもすごく心配してくれてること!』

「いや……うんまぁ……」


まぁ間違いではない。照れくさそうに笑う名無しさんに、イルーゾォはなんとも複雑な表情になった。



『あの、心配かけてごめんなさい……でも、いつも心配してくれてありがとう!』


名無しさんは嬉しそうに、これにて解決!とでも言い出しそうな笑顔で、カルボナーラを食べ始めた。


「うん……そうだね……どういたしまして……」


イルーゾォは名無しさんの無邪気すぎる回答に頭を抱えたくなった。

嫌われていないことはよくわかった。安心した。しかしなんで気が付かない?


『やっぱり、ここのスパゲティ、おいしいですね!』


訂正した方がいいのか、悩むイルーゾォの目に、カルボナーラを美味しそうに頬張る名無しさんが写った。


「……そっか……いっぱい食べな……。」


イルーゾォがフゥ、と息を吐き出した。


一応、大事に思っている事は伝わっているようなので、今回は……まぁ……いいか。



『イルーゾォのも一口くださいー』

「……今小皿に分けるから待ってて。」



メローネの件で、何かしなきゃと焦りすぎていたようだ。

イルーゾォは新しいフォークで、自分のスパゲティを、名無しさんの食べきれる分だけ小皿に分けた。


自分はメローネじゃないから、ゆっくりでしか伝えられないかもしれないが、いつか、名無しさんが思っている以上に大切に思っている事を伝えたい。あのブレスレットと一緒に。


自分の取り分けるスパゲッティをワクワク待ち望む名無しさんの顔を見ながら、そんなことを思う、イルーゾォなのだった。
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