なっがい夢
□衣食食食住
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名無しさんが囚われ、奇妙な共同生活が始まってから3日程経った。
『わっちは籠の中の鳥でありんすよ……』
「わけのわかんねぇこといってんじゃねーぞ!!オラっ、飯!!さっさと食え!」
『わーい、ピザだぁーお茄子とお肉が乗ってるーぅ』
前に全員で会議みたいになったときにいた部屋は実はリビングだったようだが、今は部屋数が足りないので名無しさんの部屋のようになっている。そして名無しさんはなんだかんだ囚われる生活に馴染んできていた。
囚われと言っても、繋がれているわけではない。拉致されてきた日の当たらない木造アパートの内部は好きに出入りしていいし、窓の外を眺めててもいい。ご飯も貰える。夢でないとわかったこの世界に名無しさん単身放り出されても生きていく自信は1%も無い。
『ギアッチョは食べないんすかー?』
「う……俺はさっき仕事終わったばっかりで食う気がしねぇんだよ……」
『ふぅーん……』
アホな名無しさんには推し量れない事だが、きっとエグい仕事をしてきたんだろう。ギアッチョは具合悪そうに眉を寄せ、ゆっくり名無しさんの向かいのソファに腰を下ろした。
ちなみにあれから3日間、リゾットもとい暗殺チーム一同は名無しさんに心身共に負担をかけないという約束を守ってくれていた。
そして、なんとなくこのチームの仕事、組織での位置付け、チーム内の力関係、今が読んだ漫画より少し前であることを察していた。
『あっつ、あつっ、うまっ!』
まぁ色々考えても腹は減る。
「意地汚ぇなぁー落ち着いて食えよー誰も取りゃしねぇんだからよぉー」
ギアッチョはスッとティッシュを取り名無しさんに差し出し、名無しさんもそれを受け取り軽く口を押さえた。イタリアのティッシュは固くてごわごわだ。
この3日の間に、リゾットとホルマジオが食事やらの世話をしてくれていたが、今日は初めてギアッチョが来た。
『ほるまひおとひぞっとさんはー?』
「飲み込め」
『(ごっくん。)ホルマジオとリゾットさんはー?』
「今日は任務でいねぇよ。あの二人が揃って出払うのは珍しいが……頭脳派な任務なんだろ。」
ギアッチョがソファにふんぞり返って言った。ギアッチョの事ではないのになぜか偉そうだ。
『ふーん……じゃあ今日のお話相手はギアッチョなんすねーやったぁー』
にへらっと名無しさんに笑いかけられてギアッチョは驚いたように目を少し大きく開いた。
「お、おう……」
名無しさんの言うお話相手というのは、名無しさんの食事の際、話術に長けるホルマジオと、頭の冴えるリゾットが名無しさんから、ストレスをかけないように、自然にいろいろ聞き出すためにしていた、言わば取り調べのようなものだった。
名無しさんはそれに対してペラペラ喋った。日本出身であること、年齢、血液型、誕生日、趣味、言葉はなぜ通じるのかわからない。寝て起きたら此処に居た、ブロッコリーが好き、等々……
「俺はよ、ホルマジオみてぇな回りくどい言い方できねぇから単刀直入に聞くぜ。名無しさんよぉ、おまえ本当に未来がわかんのか?」
『ブッ!!ゲッホゲッホ!!』
「んなっ!?汚ねっ!!」
流石暗殺者、唾と共に飛んできた挽肉の欠片をさっと避けると、名無しさんに本日2枚目のティッシュを渡した。
『未来?はて?……あー……知りません?』
「………………下手くそすぎるだろ……チッ、無理に聞き出すなって命令だからこのぐらいにしといてやるぜ……」
ギアッチョはふぅ、と溜息をつき天井を仰ぎ、名無しさんは
『うへへへ……すいやせんです』
と、これまた下手くそに誤魔化した。