なっがい夢
□此処にいる理由
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名無しさんがこの世界に来てから一ヶ月とちょっとが経とうとしていた。
「俺はよぉ、明日任務でミラノに行くんだぜぇ。」
『えー!!いいなギアッチョ!ミラノ!ミラノと言えばドリア!』
「ドリア?何それ?何言ってるの名無しさん?カツレツじゃなくて?」
『えっ?ミラノってドリアじゃないんですか?』
「ドリア……?聞いたことないなぁ。兄貴は知ってますかい?」
「いや、初めて聞く名前だな……どこで得た知識か知らないが、その情報は間違ってるぜレディー。ミラノは、カツレツが有名だ。」
『えー……違うんですかー……うん!でもカツレツの方が食べたい!』
「………………カツレツならローマでも食べられるとこ、あるよ。……一応」
『へぇー!イルーゾォ結構お店知ってますねぇ!食べてみたいなぁー……ミラノ風カツレツ……』
ちなみにミラノ=ドリアという知識は、大衆派の名無しさんが日本のファミレスで得た間違えた知識だ。ドリアの発祥の地は横浜だ。
まぁドリアの話は置いといて。
これから仕事の者、仕事を終えた者、休みの者……そうやって今日も暗殺チームの半数以上が、名無しさんの居るリビングに入り浸っていた。
名無しさんを保護すると聞かされた最初こそ、少し抵抗があったが、それぞれがそれぞれ、名無しさんと過ごす時間を得て、彼女を受け入れ、和気あいあいと過ごしていた。
「お前たち、またここにいたのか……」
「……しょうがねぇやつらだなぁ……」
そして、この奇妙な状況に違和感を覚える者はやはり、リーダーであるリゾットと、参謀的役割を果たすホルマジオだけだった。
『あー!リゾットさん!マジオ兄さん!今ミラノ風カツレツの話してたんですー二人は食べた事ありますー?』
名無しさんがどうでもいい話をしながら、人懐っこい笑顔で二人を迎え入れる。
「おいおい、いきなりなんの話かと思えば……しょうがねぇなぁ……」
「食べた事はあるが……」
名無しさんがあまりに自然に、笑顔で話しかけてくるので、リゾットとホルマジオは言葉を濁した。
今日という今日は名無しさんのペースに飲み込まれるわけにはいかないのだ。
(……言わねばなるまい。)
リゾットとホルマジオは目を合わせ、重く頷いた。