なっがい夢
□恐怖クリニック
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プロシュートは今日も、ばっちりキメたスーツに身を包み、高級な香水の香りを漂わせ、ローマの町並みを歩いていた。
任務を終え、真っ直ぐローマの外れの家には帰らず、中心街で買い物をしている途中なのだ。
こんなにローマが似合う男も少ないだろう。先程から道行くマダムや若いレディー達の視線は、プロシュートに釘付けだが、そんなのは今更だ。残念ながらプロシュートの視界に彼女達は写らない。
と、その代わりに、プロシュートの目には、カフェのデザートケースが写っていた。
立ち止まり、腰をかがめてケースの中身を見つめる。
(一昨日はティラミスだったか。今日は…そうだな………)
「ボンジョルノ!欲しいものがあったら声かけてくださいね!」
プロシュートが吟味していると、ケースの向こうから、若い女性店員がとびきりのスマイルで顔を出した。
「ふむ………じゃあこのフルーツタルトを一つ頂こうか。」
「かしこまりました!7ユーロになりまーす!…………甘いもの、お好きなんですかー?私も大好きなんですー!」
女性店員がフルーツタルトをトングで掴み、箱に詰めながら、プロシュートににっこり笑いかける。
「あぁ、俺の連れが、好きなんだ。」
プロシュートもにっこり笑い返すと、10ユーロをケースの上に置いた。
「えっ……?あぁ、彼女さん……」
女性店員の笑顔がみるみる少なくなっていく。
「厳密にいえばこれから彼女さんになる女さ。釣りはチップだ。」
プロシュートはタルトの箱を受け取ると、美しい姿勢のまま踵を返した。
店員はがっかりした顔でそれを見送った。