twitterであげていたおはなし。2

□すきにして、いいよ
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スリッパをパタパタさせ、玄関に向かうと座り込んで靴を脱ぐ背中が見えた。
あれ、なんか…ちょっとたくましくなったかも。
なんて思っていたらくるりと振り向いた彼。

「え…!?」
「お、おかえりなさい」

驚いてる顔も、発した声も、完全に大人になっていた。
お互い面食らったまま数秒が過ぎる。

「おじさんもおばさんも、夜まで戻らないんだって。
あと、あの子もちょっと出かけてくるって言っててさ。
とりあえず、お昼作ってあるから一緒に食べよう?」
「…はい」

手を洗った後ふたりで向かい合い、オムライスを口に運ぶ。
これって…新婚さんみたい。
と思ってしまってる自分が浮かれすぎてて気持ち悪い。
まだ、わたしと彼はただの「友達の弟」「姉の友達」という関係でしかないのに。

ごちそうさまでした、と手を合わせた彼は
あの時と同じようにわたしをまっすぐ見つめる。
食べるのが遅いわたしは、まだ半分も食べきっていない。
見つめられながら食べるオムライスは、もう味がわからなくなっていた。

「食べながらでいいので、聞いてもらえますか」

喉にごはんが詰まりそうになったのをなんとか飲み込み、こくりと頷いた。
穏やかな声でゆっくりと話し出す。

「半年前と、俺の気持ちは変わっていません」

そうだよね、その目を見てれば…嘘じゃないってわかるよ。

「高校生になったばかりですけど、次、いつ会えるかもわからないので…」

そっとうつむいた彼のまつげが作る影が濃くなった。
高校に、きっとカワイイ子だってたくさんいるだろうに…
それでも同じ気持ちでいてくれた彼を、心底愛しいと思った。

もう、いいよね。
幼かった胸を、ずっと締めつけてきたであろう恋心。
わたしが、楽にしてあげたい。

「力くんさ、自分だけそんな気持ちだったと思ってる?
わたし、あの時あんなふうに言ってもらえてすごくうれしかったんだよ」

顔を上げた彼に、しっかりと想いを伝える。

「わたしも君のことが、すき」
「…それって、俺とつきあってくれるって思っていいんですか」
「うん」

はじける笑顔。
静かに微笑む君ばかり見てきたけど、今までで一番いい顔、してる気がするよ。

彼の肩の力がふっと抜けたのがよくわかる。
席を立つと、彼はわたしの横に来た。
椅子、座ればいいのに立ったまま。
そしてとんでもないことを口走る。

「キス、したいんだけど」

手に持っていたスプーンがかちゃりと音をたててお皿に落ちる。
なんなく外れてしまった敬語。そしてこの展開。
ちょっと早すぎやしませんか…?

「あの、さすがに人の家では…」
「俺にとっては、自分の家だから」

”イイコ”だと思ってたけど、こんな顔もあったんだね。
まいりました。

「…すきにして、いいよ」

絞り出したわたしの言葉に、
じゃあ遠慮なく、と身をかがめた年下の恋人は
初めてとは思えない様子で軽々と唇を奪っていった。

「ずっと、こうできたらいいなって思ってた。何度も。」

抱きしめたくなる衝動を抑えるのが、これほどにもしんどいなんて。
これから、恋の甘さ・苦さも、胸の痛みも知っていくんだ。
君と一緒に。
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