twitterであげていたおはなし。2

□隣の空席
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さっきのか細いトーンとは違って、訴えかけるような強さを感じる一言。
落ち着く、ね…まあ気心しれてる幼なじみだからかな、なんて自分では納得したつもりだったけど。
彼はそんな簡単には片付けさせてくれなかった。

「学校でも、こうやって家でも…隣にお前がいると、安心するんだよな。
隣が空いてるのは…さみしい」

熱が上がってきたのか、少し乱れた呼吸。
でも決して手は離さない。目もそらさない。

ずっと一緒にいたからわかる。
この目は、真面目な話をする時の目だ。
梟谷に行きたい、バレーでてっぺんとりたい、と語ってくれた
中学生の頃の彼を彷彿とさせる目。

「俺のこと、幼なじみ以上には見れないのかな、やっぱ」

ごほごほとせきこむ。
目には涙がうっすらたまっていた。
無理に話さなくていいよ、と言いながら背中をさする。
今の言葉は、幼なじみ以上に見てほしい、という意味だろうか。
だとしたら何て答えよう…
でも、弱ってるからこんなこと言ったのかもしれないし。
とりあえず、元気が出るような言葉を置いていこう。

「嫌いだったらわざわざこないよ」

そう言って笑いかけたら、パッと顔が明るくなる。
ほんと、わかりやすいやつ。憎めないやつ。…ほっとけないやつ。

ゆっくりと手を外して立ち上がる。
彼の手は布団の中にしっかりとしまいこんだ。
そしてドアの前に立つと、後ろから彼の声。

「さっきの…嫌いじゃないって…じゃあ、望みはあるってことか…げほっ」
「そんなこと言ってないで、病人はおとなしく寝て、早く治しなってば」

口ではそう返したけれど、この後わたしたちの関係はどうなるんだろうという思いが頭の中を掠めた。
いい幼なじみ、という関係は変わってしまうのかな。
それも、わたし次第、ってことなのかな…
ドアノブに手を掛けたまま、しばし考えていると、追いうちをかける一言。

「…熱のせい、じゃないからな。
元気になったら、もっかい、ちゃんと言うから…待ってろ」

一気にしゃべったかと思ったら、こてんと首を傾け、再び寝に入る体勢だ。
邪魔しないようにそっと部屋を出て、ドアを閉めた。

次に会う時、どんな顔をしたらいいんだろうとふと思ったけど、
きっとそんな迷いも、彼が全部取りはらってくれるんだと思う。
小さい頃から変わらない笑顔は、鮮やかにわたしの毎日を彩っていく。
今までも、そしてきっとこれからも。

…わたしの隣は、もうじき埋まるのかもしれないな。



―すやすやと眠る手から、床にはらりと落ちたルーズリーフ。

『木兎さん

風邪なんて珍しいですね。心配です。
以前から木兎さんが話していた片想いの幼なじみの方って、
この手紙を届けてくださっている方ですよね。
元気が出るように、お見舞いを頼みました。
どうですか、どんな薬よりもきっと効くんじゃないかと思います。

早く元気になって、また俺のトス打ってください。
では、失礼します。                   赤葦京治』
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