twitterであげていたおはなし。2

□直射と乱反射
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買ってもらったジュースのパックを片手に、口元の緩みをそのままに、昇降口へ歩き始めた。
パタパタと足音がして、その音がどんどん大きくなる。
誰か廊下走ってんのかな、なんて思っていたら、とん、と肩に感じるもの。
うわ、と思わず声を出して振り向くと、さっき別れたはずの彼がそこにいた。

「…ど、どうしたの?」

平静を装って声をかけると、眉を寄せて少し苛立ったような表情。
あまりこういう顔するところは見ない。
無意識で怒らせるようなことしてたかな、って必死で考えた結果。

「あ!お礼、言ってなかったね。コレ、ありがとう。ごちそうさま」
「……お前、なんで気づかないの?」

目がちゃんと合ったことと、少し強めの口調に驚いて一歩下がると
逃がさない、と言わんばかりの力で手首をガシッと掴まれた。

「俺、お前のこと、好きなんだけど」

想定外の言葉を口にしたと思ったらすぐ、うつむいてしまった。
何が起きたのか、手首を掴まれたままポカンとしていたけど
じわじわとその言葉の意味を噛み砕いていくと、体内を巡る血がぶわっと逆流するような感覚。

「う、嘘だぁ!」
「…嘘なんてつかないし」
「さっき教室で言ったみたいな冗談はさぁ」
「冗談じゃないって」

いつもなら放課後とは言っても誰かしらがひっきりなしに通るはずの廊下。
広い校内にはたくさんの生徒や教職員がいるはずなのに、奇しくも今、二人きりだ。
しーんとしているせいで嫌でも声が響くから、彼の放つ言葉は倍以上の力でわたしに訴えかけてきている気がした。
それならば、ずっと気にしてたことの答えを彼の口から聞いてみたい。

「だって…わたしと話してる時、あんまり楽しそうにしてくれなかった」
「そうか?」
「よそ見してるし、相槌テキトーだし。他の子と話してる方がよっぽど生き生きしてるよ?」
「それはな…」

声のトーンを少し下げてこう言った。

「好きなヤツが目の前で話してて平然と直視し続ける方法があったら、教えてほしいモンだわ。
他の子は、何とも思ってないから目を見て話せるけど…
好きって感情が障害物になると、見たくても見られねーんだって。
だから、周りに視線飛ばして、ごまかすしかなかった」

ただの照れ、だったのか。
女慣れしてるとばかり思っていたのに、理由は至ってシンプルな年頃の男子らしかったから
思わず笑ってしまった。

「お前は、どうなんだよ。俺のことどう思ってんの?教えて」

笑われて悔しいのか、決まりが悪そうにしながらも彼は確認を忘れない。

「あれだけアピールしてたのに、わからない?」
「…多分、わかってるつもり。でもちゃんと言葉が欲しい」

じゃあ、言うね。
そう前置きをしてから彼の目をまっすぐに見て積もらせてきた想いを打ち明けた。

「マッキーがずっと、好きだったよ」

いつもそらされがちだった視線がちゃんとひとつに重なったことがうれしくて、自然と笑顔になる。
じゃあ、これからヨロシク。
そう言って右手で髪をそっと撫でながら微笑んだ彼の顔は、きっと一生忘れないと思う。



「部室行くのやーめた」
その言葉と同時に、大きな手がわたしの右手を奪って、長い指が指の間に絡んできた。
お互い何も言わないけど、足は昇降口に向かう。

「マッキー」
「その呼び方さ、彼氏になったなら卒業しよっか」
「…貴大」
「うん、よし」
「これからは、ちゃんと目を見て話してくれるよね?」
「おー。これからは穴があくほど見てやるよ。どことは言わないけど、全部な」

バカじゃないの。
そう言ってもう片方の手を振り上げたら、パシッと軽く捕まってしまった。

「元気なのは結構だけど、俺、男だからね〜
このまま押し倒すことだってできるし、油断はしないコト。わかった?」

ニヤニヤしながらわたしの手を下げさせる。
今まで照れてたとか言うの、嘘じゃないの。
そう思って見上げた耳はほんのり染まっていた。

窓から射しこむ夕陽のせい、じゃないよね。
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