金国♀シリーズ

□Vol.7
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「ん?どうした?」
「あの、歩くの速い…」
「ああっ、そっか!普段男と歩いてばっかだから気づかなくて…悪い」

さっきより大分ペースを落として歩いてくれるようになった。でも本当はね、できたら……やっぱ、いいや。

「じゃあ、チュロス食いに行こう」
「うん」
「あと、もうすぐ夏休みだな」
「そうだね」
「国見はどっか行くのか?家族旅行とか」
「お盆におばあちゃんのところに行くぐらいかな」
「へー」
「金田一は部活?」
「おう。お盆が3日間だけ休みだけど、あとは全部、1日中部活」
「ハードだね」
「相当キツイって先輩が言ってるから頑張ってついていかないとな。……あ、でも」

金田一が足を止めたからわたしもつられて立ち止まる。見上げた先にある顔は更に上の宙を見つめていて、そこでぽつりと。

「部活漬けだと、国見に会えないのか。それはなぁ、ちょっと…」

寂しげな口調に心臓がとくんと強めに弾む。わたしが思っていたのと同じことを、金田一も思ってくれてたなんて。

「部活が終わるのって何時?」
「多分6時から8時くらいかな。朝は8時からだけど準備もあるからもっと早く行くし。一日の半分を体育館で過ごしてる感じになる」
「そんなに…」
「練習の後に会いに行きたいけど夜も遅いから迷惑かかったら悪いし、疲れて寝ちまう可能性もなくはないし…あー、どうしたらいいんだ…」

逆立った髪をわしゃわしゃと掻いて、うーんと悩んだ後、ため息をつく。

「つきあえたの嬉しくて舞い上がってたけど…そうだよな、部活の時間が圧倒的に長い…」
「うん…」
「寂しい思いさせちまうってこと考えてなかった…」
「……」
「あっ、国見は実は平気…だったりするか?ごめんな、勝手に国見も寂しいと思ってるとか決めつけて」
「……」
「俺、耐えられる自信なくなってきた…部活三昧で夏休みなんてあってないようなものだし、だったらいっそのこと夏休みなんていらねーのに。毎日国見に会える方がずっと嬉しい」

…よし、決めた。

金田一の言葉を受けて、わたしはずっと狙っていた左手に手を伸ばす。手を握った瞬間、金田一は肩をびくっと揺らしてからあたふたしていたけれど、わたしの様子がちょっと違うことに気づいたみたい。今だ、言おう。

「金田一」
「な、何だ…?」
「わたし、部活に入りたい」
「急にどうした…?まぁ今からなら春に入部した奴とそんなに差はできてないし、部活やるのはいいことと思うけど…何やりたいんだ?」
「…バレー部の、マネージャー」
「バレー部…?マネージャー…?……って、えええっ!?」
「金田一のそばに、いたいから」

さっきいきなり握ってしまった手だけど、金田一が強く握り返してくれたからちょっとだけ素直になれた。

不純な動機だと思う。でも、会えない日々に悶々として時間を持て余すくらいなら…頑張る姿を目に焼き付けて、声援を送りたい。金田一、そして彼が尊敬し信頼している仲間のみなさんの役に立ちたい。それが理由ではダメなのだろうか…?

「マネージャー、募集してない?」
「いや、うちマネージャーいなくって…別に募集してないわけじゃないし、入部するって言ったらみんな喜ぶと思うけど。でも…いいのか?」
「うん」
「じゃあ明日、主将に話してみるから」
「ありがとう」
「そっかぁー、国見がマネになってくれるのかー」
「まだ入部できるって決まってない…」
「何言ってんだ、大丈夫だって」

さっきまで曇っていた顔が一気に晴れ渡った。そのままがっしりと手を離さずにまた歩き出す。今度は金田一から言ってくれないかなぁ。

手、繋ごうって。

ううん、言葉がなくてもいい。強引な人って男女問わず少し苦手だけど、何も言わずに手を奪ったっていいんだよ。そしてそのまま離さなくたっていいんだよ。

金田一なら。
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