twitterであげていたおはなし。3

□Darling
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テレビを見ながらわたしの作ったごはんを食べていると、
あまりミーハーではない彼が珍しく、映っていた女の子を見て「お、可愛い」と言った。
もちろん、わたしとは似ても似つかない。

「見たことあるな、この子」
「CM出てるじゃん、炭酸飲料の」
「あー、言われてみれば」

芸能人に闘争心を抱いても無駄だし、彼だって特に深い意味もなく言ったんだってわかっていてもやっぱり少し妬けるもの。
箸をかちゃりと置いたわたしに「なんだ、もう食わねーのか?」と聞いてきた彼を無視して質問を投げかけた。

「ね、はじめはなんで、わたしとつきあってるの?」
「ごふっ」

わたしの質問でごはんを喉に詰まらせた彼が
水を飲んではあはあと息をしながら、ようやく落ち着いた。

「何だよ、急に…どうかしたか?」
「わたし、美人でもないし、スタイルだってよくないし、迷惑いっぱいかけてる」
「何、言ってんだ?」

自分で口にしてしまうと余計惨めだ。
可愛い子に、もっと器用に何でもこなせて彼を支えられるような素敵な人に
いつか彼を持ってかれてしまうんじゃないかって不安がないと言ったら嘘になる。
それが徐々に表面に出て、涙に変わった。

「うっ…ひっく…」
「は?お前、何泣いて…」

彼が箸を置いてわたしに向き直る。

「はじめは、変わり者だね」
「何がだよ」
「だって、こういう子が好きなんでしょ?わたし全然ちが…」

テレビを指差した直後、両肩に手を置かれ引き寄せられた。
強めに押し当てられた唇。
鯖の味噌煮味のキスを体験したのはきっとわたしが世界初ではなかろうか。
びっくりしすぎて涙が止まった。
わたしを抱きしめたまま、絞り出すような声で話し出す彼。

「比べんな、お前はお前だ」
「だって…」
「うるせー。俺がそう言ってるんだから、さっきのキスの意味、素直に受け取れ」

そう言ってわたしから離れ再びごはんを食べ始める。
わたしがさっきまでと同じようにごはんに箸をつけ、もぐもぐと咀嚼しているのを確認すると、
今度は彼から切り出した。

「変わり者は、お前だろうが」
「何で?」
「普通は、あの部活ん中を見たら及川に目がいくんじゃねえの。なんで俺だよ」
「えー、それは…」
「それは?」

わたしの答えを待つ間に、お味噌汁をすする彼。
その目には少し期待が入り混じっているように見えなくもない。

「なんでかわからないけど、わたしは最初からはじめを見てたんだよね」
「嘘つけ」
「嘘じゃないよ。及川はタイプじゃなかったし…」
「そんな女もいるんだな。やっぱ、お前変わってる」
「じゃあ、ふたりとも変わり者でいいんじゃない?ベストカップルってことだね!」
「…お前がいいと思うならそれでいい、勝手にしろ。
ったく、さっきまで泣いてたとは思えねーお気楽っぷりだな」

ぶっきらぼうに言いながらもわたしに向けてくれた視線はあったかいものだった。
彼はとっくに食べ終え、わたしがのんびりごはんをお腹に収めていくのを頬杖をついて眺めている。
遅えよって怒られながら食べるごはんこそ、わたしには一番のごちそうなのかもしれない。
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