twitterであげていたおはなし。3

□その恋、劇薬につき。A
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友人が早々に内定をもらい単位取得に目標を切り替えている頃、俺はようやく就職活動に本腰を入れ始めた。
そんな折、高校の先輩の及川さんから掛けられた一言。

「国見ちゃん、ホストやってみない?」

ギラギラしたイメージのある職業は、自分には不向きだと思っていた。
でも及川さんはそんな俺を、内勤からでいいしと半ば強引に店に引っ張っていく。
話を聞くとホストクラブとは言ってもバレー部の先輩4人が働いてるとのこと。
それならいっかと軽い気持ちでバイトに入り、卒業後はそのままプレイヤーになった。
接客は苦手と思っていたが、やりたいようにやっていても相手は喜んでくれるし
無駄に頑張る必要がないのは、俺にはとても都合がよかった。

しかし、超えられない壁はある。

それが、ナンバー2の壁。
指名してくれるお客さんが徐々に増えても、俺はよくても三番手が限界で。
部活に明け暮れた高校時代、レギュラーではあったけれど
選手交代をするとなれば一番にコートを去る立ち位置だった。
そんな経験のせいか、不動の存在・安全圏への憧れは自分が思っていたよりも大分強いみたいだ。
ガムシャラに人気をもぎ取るつもりはなかったけれど、
『勝ちたい』という気持ちはふつふつと内側で静かに沸いていた。



ある日、及川さんの常連客の一人がいつも通り及川さんを指名した。
でもあいにく及川さんは接客中。
今こそ計画を実行するタイミングだと悟った俺は、彼女を案内してきた金田一にすかさず言う。

「俺、ヘルプ行くから」

他のホストを指名しているお客さんから連絡先を聞き出したり
勝手に指名ホストの悪評を流して地位を落とすといったやり方はこの世界では御法度。
そこで考えたのが、及川さんの指名客を手を汚すことなく奪うというやり方だ。
ヘルプに入った時にさりげなく気に入ってもらえるよう仕掛ければいい。

及川さんのことを話させておいて適当な返事をする。
きっと彼女は「なんなのコイツ」って思うだろう。
それでいい。
何か印象を与えることが重要だ。
そして相手の心証が悪くなりすぎない程度に俺を意識させることができた、と思ったらトドメの一言。

「俺もあなたにそんな風に思ってもらえるように、全力を尽くします」

全てはこの作戦通りに運び、滅多に見せないでおいている営業スマイルも最後に奮発しておいた。
あとは、彼女の次回のご来店を待つばかり。
少しだけだけど、手応えはあった。
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