twitterであげていたおはなし。3

□その恋、劇薬につき。A
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作戦が功を奏したのか、彼女は数日後来店し、俺を指名した。
結果としてピンドンも入れてもらえたし、初回の成果としては上々と言えるだろう。
でも、そう上手くいかないのが人生だというのを俺は強く思い知る。

「あれ…?」

指名してもらってから更に数日後、フロアを見ると彼女が来店しており、傍らには花巻さんがいた。
思わず手があいていた金田一に詰め寄る。

「なぁ、あのお客さん」
「ん?おいか…んんっ、トオルさんの常連の人か?」
「ああ、そうだな。何でタカヒロさんが接客してるんだ?トオルさん今空いてるだろ」
「うん。イッセイさん以外全員いますよって言ったら、今日はタカヒロさんを指名していった」
「ふーん」
「そっか、前回確かお前を指名してたよな、あの人」
「…ん」
「なんだ?ヤキモチか?って痛ぇっ!髪引っ張るな!」
「…うるさいらっきょ」

指名客をコロコロ変える人はそう滅多にいない。
それに元々及川さんにべったりだったのに、毎回違う相手を選ぶなんてどういう風の吹き回しなんだろう。
彼女が背中越しに時折ちらりと覗かせる笑顔を見て、悔しさがチクリと胸を刺す。
どういう悔しさなのか一言では説明ができない。
単に客を掴み損ねた、だけでは片付けられないこのモヤモヤ。
俺の横で少し心配そうにしている金田一に「何でもねーよ」と言い残してバックヤードに向かった。



それからも数日おきに来店する彼女だったが、指名するホストはてんでバラバラ。
その度に俺の心は期待と失望の繰り返しで疲弊していった。
彼女がやっと俺を再指名してきたのは最初の指名から数えて8回目の来店だった。

「最近、あまりお会いしないから心配でした」

悔しかった、そして今とても嬉しい、という感情を表に出さないように淡々と。
そんな俺のセリフに彼女はあっけらかんと答える。

「そう?結構頻繁に遊びに来ているつもりなんだけどな」
「ああ、他の人が接客してたからですかね」
「まぁ、色んな人と楽しめるのがココのいいところだよね」
「…今日はトオルさんじゃなくていいんですか」
「今日は、アキラの気分なの」

アキラの気分。
その言葉を借りて、ここでもう一度彼女の気持ちを惹きつけられたら。

「これからもずっと、その気分でいてくれたら嬉しいんですけど」
「ふふっ」

彼女はただ口の端に笑みを浮かべるだけだった。
正直手応えはない。
たかが客一人にこうも心を振り回されるなんて。
売上を伸ばしたい、トップ2の壁を突破してやるという当初の思惑はどこへやら。
男として、この店の誰よりも彼女の目に映りたい気持ちの方が大きくなっていた。
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