twitterであげていたおはなし。3

□その恋、劇薬につき。C
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影山の先輩から掛けられた言葉は想像以上に喉をすっと通って、胸にじわりと染み込んだ。

自分の気持ちに、正直に。

そう決めてからは彼女を接客する時、今までよりも力が入ったような気がする。もっと話を聞きたいし、視線を合わせたい。あわよくば俺の本当の気持ちが少しでも伝わればいいなという想いから、掛ける言葉も甘めになってしまっていたかもしれない。
そっけないのがウリ、なはずなのに。俺が俺らしくなくなったのは確実に彼女のせいだ。


いつのまにか彼女は俺だけを指名するようになった。もちろん、俺の心の指定席は彼女で埋まったまま。これが本当の恋ならば両想いというやつではないか、なんて心は弾む。

「今日、上司に資料作成押しつけられちゃったんだ」
「それは大変ですね」
「しかも渡されたのが17時で締切が19時とかさ、残業しろってことじゃんね」
「お疲れさまです。でも、それだけ頼りにされていて必要とされてるのってすごいと思うけど」
「そうかなぁ…ただのパシられとしか思えないよ?」
「存在意義があるのって憧れます。俺もそんなふうに必要とされたいものです」
「…アキラがここにいてくれて、わたし楽しいよ?いてよかったって思うもん」
「…ありがとうございます」

隣でお酒を口にし頬を膨らませたりため息をつきながら話す姿を見て、これが自分の部屋であれば…と考えずにはいられない。もっと甘やかしたり慰めたり、言葉だけでは伝えきれない気持ちをぶつけられるのに、と思う。それと同時にこんなに客に熱を上げているホストが俺以外にいるのだろうか、なんて思ったりもして。



出会って半年が経とうとしていたある夏の日。
事前に彼女から「明日、行くね」と連絡をもらっていた俺は上機嫌で出勤した。
そして彼女が来たので最後に裏で服装のチェックをしよう、なんて思っていたら運悪く花巻さんと松川さんに捕まってしまった。

「お前、よくやるなぁ」
「本当そうだよね」
「何がですか」

ニヤニヤ顔は、単なる褒め言葉ではないとわかっている。だから淡々と返事をした。

「トオルの常連さんの中でも、まあまあの太客を囲うとはねぇ」
「半年かかったけど、もうバッチリ固定客だもんな」
「あの子、アキラにべったりだしアキラもなんか楽しそうだよね」
「それ、分かるわぁ」

彼女のことを言われると、心臓が抉られそうだ。確かに最初はそのつもりだった。でも今は…単なる客ではないから。

「別に、大したことないです」

先輩達が俺の反応を見て楽しもうというのなら、つまらない態度をとればいいと思った。

「上に行くためですから。三番手のままで終わるつもりありませんよ。まずはイッセイさん、あなたという壁がありますけど」

この人達に、自分が彼女を特別に想う気持ちを絶対に悟られる訳にはいかない。それゆえ、あくまでも仕事として彼女の接客に注力しているのだということを強調した。

「言うね〜アキラも大人になったんだな。昔は無気力だったのに」
「仕事にやる気なのは結構。店の売り上げあがれば俺らにもちょっとは恩恵あるかもだし、頑張れよ〜」

幸いにも先輩達には俺の思惑はバレていないようだった。
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