twitterであげていたおはなし。3

□その恋、劇薬につき。C
2ページ/3ページ

金田一が彼女を案内したという席はもぬけの殻だった。トイレ…かな。ソファに深くもたれて待っているとしばらくして彼女が戻ってきた。その顔色は冴えなく、なんだかぐずついた空みたいだった。

「こんばんは」
「こん…ばんは」

元気がないけれど、と指摘すると彼女は小さく首を横に振った。お酒でも飲んだ方が話しやすいかな。そう思い花巻さんが試作していた新しいカクテルを頼んだ。運ばれてきたグラスを彼女の手前に置くと。

ぴちゃん。

グラスに落ちた一滴の涙は彼女の目から溢れ出たものだった。

顔を覗きこんで理由を尋ねても何も返事をしてくれない。口に出すのさえしんどいことでもあったのだろうか。それとも…

「体調悪いんでしたら、今日は無理しない方が…」

一緒にいたいけど彼女のつらそうな姿は見たくない…というか、見ると自分が抑えられなくなる。自分の胸で思い切り泣かせてあげられないから。俺はホストで、彼女は客。

彼女は鞄から財布をだし、取り出した一万円札を俺の胸に押しつけてきた。
そして涙で濡れた顔のまま一言、

「ごめん、失礼するね」

そう言って鞄をひっつかんで店の入口に向け走っていってしまった。何が起きたのか理解できなくて呆然と座っていたら、岩泉さんのでかい声が響く。現役時代いくら俺がだるそうにしていても、この人にこんな風に怒鳴られたことはない。

「ボゲ!さっさと追いかけろ!」
「…えっ」
「お前の今日の業務は終わりだ。この後は好きにしろ。誰もお前のやることに口出しなんかしねえし、させねえから」

岩泉さんはきっと俺の気持ちに気づいている。最後の言葉からそう感じた。普段からたくさん会話するわけでもないのになぜだろう、という疑問はあったがそれよりも先に体が動いた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ