twitterであげていたおはなし。3

□かわいいひと
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「夕飯はどうするの?」
「木兎さん達と食べにいくって言ってあります」
「そう。じゃあ一緒に食べようか。何がいい?」
「何でも」
「それ、一番困るやつなんだけど…」

あなたと食べるなら、カップラーメンでも昨日の夕飯の残りでも俺には絶品ディナーなんです。
でもそう言うと今後の彼女のためにならないから、敢えて。

「じゃあ、和食作ってください。煮物とお味噌汁と簡単な前菜を何か…」
「…」
「何で黙るんですか」
「料理得意じゃないって、知ってるくせに」
「作らないから覚えないんですよ」
「うー…」
「失敗しても俺が全部食べるって約束します。だから、作ってくれますか?」
「……ガンバリマス」

彼女がキッチンで食材と格闘している間、俺は目標にしていた範囲の勉強をきっちり片づけた。
ここからは休憩。
吹きこぼれる鍋に慌ててたり、ぎこちない手つきで包丁を握る姿を見て、未来に思いを馳せた。

俺の母親から料理を習うあなたをいつか見てみたい、なんて思う俺は随分身勝手ですけど…思うのは、自由ですよね。


「…うん」
「どう?」

ぐずぐずに煮溶けた肉じゃがを口に運んだ俺を心配そうな顔でのぞき込んでくる彼女。

「悪くないですよ」
「悪くない、かあ…」
「これなら食べられます、大丈夫です」
「手料理の評価が『大丈夫』って…何気に傷つくんだけど」
「味見しました?」
「ううん」

あっけらかんと言った彼女は同じく肉じゃがを頬張ると首を傾げた。

「なんか…甘い?」
「まずは味見することから始めましょうか」
「…ごめん」

落ち込んでいる姿を、不謹慎だけど可愛いと思った。
そんな顔を見ると少し甘やかしたくなる。

「作ってくれたことが嬉しいです」
「でも、味…」
「これがあなたの味、って思えばいくらでも食べられますよ」
「…ありがと」

箸を進めていると彼女がつぶやいた。

「次は、頑張るから」
「楽しみにしてます」
「おいしい、って言わせてみせる」
「男の胃袋を掴むっていう超ベタなテクニックも必要ですよね」
「結婚するなら…そうだね」

その単語を適齢期の彼女に言われたら、男としてはそれに応えるべきなんだろうけど…
あいにく俺は遅く生まれすぎているので何も言えなかった。
それでも彼女は笑顔を絶やさない。

「おいしい肉じゃが作れるようになったらお嫁さんになりたいな、京治の」

軽々しくうん、と返事をしてはいけない。
それこそ彼女を自分に縛りつけることになるから。
何年も待ってもらうことになってしまうから。
だから無言で、部屋に来た時と同じように頭を撫でるしかできなかった。
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