twitterであげていたおはなし。3

□特効薬のプレゼント
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※執事として同じセッターの菅原さんが登場します!



いつもなら、起きても意識がしっかりとするまでそれなりに時間がかかる。それなのに、自分の呼吸の熱さで驚いたあまりぱっちりと目が覚めた朝。おでこに当てた途端に熱を帯びていく手のひら。

「風邪、かなぁ……」

病は気から、とはよく言ったものだ。口にしたら急に体がだるく重くなったような気がした。だから、部屋のドアをコンコンとノックしてくるいつもの音に返事をする元気もなかった。

「お嬢様、おはようございます。……お嬢様?失礼いたしますね」

少しだけ開いたドアの隙間からはっきりと聞こえたいつもの優しい声は執事の菅原だ。菅原はベッドの中でぐったりしているわたしを見るとすぐに駆け寄った。

「お嬢様?ああ…具合が悪かったんですね。気づかず申し訳ございませんでした」
「す、がわ、ら……おみず、ほしい」

熱にうなされながらお願いすると

「かしこまりました。お飲物、すぐにお持ちします」

にっこりと笑って、毛布と布団をわたしの体にふんわりと掛け直してから部屋を出ていった。



「お忙しいところ申し訳ございません」

朝食の準備で多忙を極める調理場にひょっこりと顔を出し、俺に声を掛けたのは…

「お嬢様の執事を務めております、菅原です」

お嬢様、という単語にびくりと肩が動いたのが自分でもわかった。黒服に真っ白なシャツを着た爽やかな人が眉を寄せ本当に「申し訳ない」といった表情で佇んでいる。

対使用人であってもすげー丁寧。そして物腰柔らかで誰からも好かれそうな人だって一目でわかる。こういう人だからあいつの世話係に適任なんだろうな。あいつの……そうか、いつもそばにいるんだな、この人。

「どうしたんスか」
「実はお嬢様が風邪を引いてしまったようでして…熱もあるようなんです」
「えっ…あ、そうなんですか…それは大変すね…」
「お飲物が欲しいとのことですので、頂けませんか?」
「それなら、スポーツドリンクっすかね……」

俺は食料保存庫に向かった。金持ちはインスタントやレトルト類なんて口にしないからどうだろうな、なんて思ったけれど、幸いにも品揃えは豊富。見つけた粉末のスポーツドリンクの袋を手にして、ひとつだけあいていたコンロにやかんを乗せ点火した。

マグカップに粉末を入れてお湯を注ぐ。それをトレーに乗せて菅原さんのところへ持って行くと不思議そうな顔。

「熱があるようなので冷たいものがよろしいんじゃないかと…?」
「あっためて飲む方が体温上がって、血液のめぐりがよくなるんスよ。それで体内のウイルスをやっつけることができる、って聞きました」
「へぇ…お料理だけじゃなくてそういった知識もあるなんて素晴らしいですね」
「いや、別に…偶然で…」
「では届けてまいりますね。そうだ、きっとこの後お休みになられるので…起きたら薬を飲めるように軽いお食事をご用意いただけないでしょうか」
「あー…そしたらお粥、作っておきます」
「ありがとうございます。お昼過ぎにまたこちらに伺いますね。では…」

菅原さんの後ろ姿を見送っていたら先輩に呼ばれた。いけねー、朝食の後片付けまではこっちに集中しないとな。



菅原が持ってきたのは温かいスポーツドリンク。冷たいのじゃないの?と言うと

「とってもいいお医者様がこちらが効くと仰いまして」

ふぅん、とだけ返して渇いた喉にゆっくりとドリンクを流し込む。汗がじわじわと出てきた。

「お休みになっていてください。他の者にはお部屋に立ち入らないよう伝えておりますので、どうぞごゆっくり…」

視界の中心にあった菅原の背中がすぐにぼんやりして、あっというまに夢の中に落ちていった。
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