twitterであげていたおはなし。3

□ビターな君の甘い罠
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お互いに好き合っているから恋人になるはずだけれども、その天秤は必ずしも釣り合っているとは限らない。わたしたちの天秤はきっと、確実にわたし側に傾いていると思う。

バレー部のマネと後輩部員という関係から特別な関係になったのは、出会ってまもない5月。わたしの猛プッシュに彼が根負けして始まったおつきあい。

彼―― 国見英は常日頃と言っていいほど覇気がない少年だ。しかし北川第一という強豪中学から進学しただけありバレーの実力は抜きんでていて、そんなギャップに惹かれて熱を上げていたら思いがけなく告白を受け入れてくれた。つきあっていることは周知の事実。でもみんなの前ではそっけない態度で話しかけにも来ない。そんな態度を見ていたらわたしも愛情の押し売りをするわけにもいかず、むしろ告白前より話しかけることはぐんと減った気が。それはよく言えば落ち着いたってことなのかもしれないけど…

今日はわたしが部室の鍵当番。朝練開始より大分早い6時半すぎ、ドアの前に立ち鍵を差し込んで回そうとすると

「…おはようございます」

背後から淡々と挨拶してきたのはとろんと眠そうな目の彼だった。

「おはよう」

ドアを開け彼にどうぞと促すと背を少し丸めながら中に入っていく。ドアを閉めわたしも後に続いた。


時々こうやって朝練前の部室でふたりきりになることがある。会話はほとんどない。あったとしてもいつもわたしからで、早起きだねぇ、今日雨降るみたいだけど傘持ってる?といった他愛もない会話。彼は、はいとかいいえとか簡素な一言だけ返して着替え始める。寂しくもあるけど、ロッカーの整理をしたり部誌を書いている合間に彼を盗み見るのもわたしの楽しみのひとつだったりして。

くわぁーっと大きな口を開けてあくびをしているのとか、Tシャツの中に手を入れておなかを掻いてるのとか。普段の姿からは想像できない一面にドキドキして、つい笑顔がこぼれてしまう。備品のチェックを終え、さてわたしも着替えようか…と女子更衣室に向かうために荷物を持って部室の入口へ向かう。ドアノブに手を掛けた瞬間、

「先輩」

彼がわたしを呼び止めた。彼らしくない大声だったので余計に驚きながらゆっくりと振り向く。

「…どうしたの?」
「ひとつ、聞きたいことがあります」
「何?」
「前から思ってたんですけど…」

口調は冷静だけど表情にはいつものけだるさはなく、心なしか堅い。どうしたんだろうと心配にしているわたしをよそに、唐突な質問が飛んできた。

「先輩、俺のこと好きですか」
「えっ…いきなり、何?」
「答えてください」
「もちろんだよ。あんなに猛アタックしたの忘れたの?」
「いえ、ちゃんと覚えてます。あの時から、気持ち…変わってないですか?」
「ずっと好きだけど…どうしてそんなこと聞くの?」

そう返すと、彼はつかつかとこちらに近づいてきた。そして固まっていたわたしの手首を掴んで引っぱり、ドアのすぐ横の壁に押しつける。いわゆる壁ドンだ。ちょっと憧れてはいたけど、自動販売機と同サイズの彼にされるとやっぱりなかなか迫力がある。彼の呼吸が顔や髪にかかるこの距離は今までの最短距離。
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