twitterであげていたおはなし。3

□何でもない日にサプライズしてくれるお話。
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*社会人、同棲設定のお話です。



『駅に着いた』

スマホの画面に表示されたメッセージを受け、あらかじめ作っておいたおかずや味噌汁に再び火を入れ夕食の準備を始めた。十数分後、鍵を差す音とその後にガチャガチャ、という音がして。

「ただいま〜疲れた〜」

間延びした声を発しながら廊下を歩いてくる、スーツにコートを羽織った彼。今日は季節はずれの寒波のせいで朝から「コートどこだよ!?」とひと騒ぎしたんだったなぁ。なんて思い返していると足を止め、白いビニール袋をずいと突き出してきた。

「ん」
「…何?」

どうやらコンビニで何か買ってきたらしい。新作スイーツでも出たんだろうか、冷蔵庫に入れとけってことかな、なんて思って中を覗き込むと。

「えっ!?どうして、これ…」
「オミヤゲ」

ぷいと顔をそらしてリビングに行ってしまった。袋の中にあるクリーム色の箱、そこにはわたしが好きでよくグッズを集めているクマのキャラクターがプリントされていた。…まさか。開けると予想通りキャラクターのフェイスプリントが施された小どんぶりが姿を現す。

「こ、これどうしたの!?」
「どうした、って…シール集まったから交換してきただけ」

某コンビニにてパンやらデザートに付いてくるシールを集めればもれなくもらえるキャラの小どんぶり。そしてなんと各店舗50個限定で違う柄のものと交換できる。わたしは以前この限定版を狙っていたのだけれど、あまりの人気にお昼前にはどこのコンビニも終了していてゲットできなかったのだ。泣く泣く通常版と引き換えてきた。それは確か、数ヶ月前のこと。

「いらない?」
「いや、うれしい、けど…」
「なら素直に喜べばいーじゃん」

そうだ。

数週間前に聞かれたんだった。またキャラどんぶりのキャンペーンやるみたいだぞって。あの時のわたしは、無理してシールを集めるほどでもないし、このキャラの食器は既に十数種類も手元にあるから「別にいいや」って答えたような気が。

「それさ、会社の最寄りのコンビニでラスト4つだったんだ。今日営業に出た時に他の店舗にもいくつか寄って聞いたら結構な数残ってて。多分前回と同じ柄なんだろ、それ。だから限定版でも競争率下がってるんだと思う」

コートとジャケットをソファにばさりと脱ぎ捨て、ネクタイを緩めながら淡々と説明してくる。

「茶色のクマのやつ持ってたから、白いクマの方、欲しかっただろうし。お前そのキャラ、好きだもんな」

別にいい、って言ったのに。わたしの好きなもの覚えててくれて、こっそりシール集めてくれてたんだ…普段は口も悪いし、くだらないちょっかいを出したり意地悪してくるくせに、どうして今更こんなにわたしの心を揺さぶるのか。クリーム色のクマを白と表現する雑さはこの際目をつぶってやろう。口元がふにゃりと緩んでしまうのを彼に見られないようにと思いながらも…やっぱり我慢できなくて。

「堅治、ありがと!」

リビングに突進して着替え中の彼の胸にどんと飛び込むと、ふらりとよろめいた。

「うっ、おま…加減しろよ、コノヤロォォ!」
「へへ…ごめん」

悪態をつきながらもぽんぽんと頭を二度叩く手は優しくて。

「いいから、メシ。俺、超腹減ってんだけど」
「はぁい」

確かに好きだよ、このキャラ。可愛いしね。でもね、こんなふうにしてくれるあなたの方がずっとずっと愛おしいんだ。


「おい、この冷奴、木綿なんだけど」
「うん…?」
「冷奴は絹ごしだろフツー」
「そか、あんまり気にしないで買っちゃった。ごめん」
「俺の好み、ちゃんと覚えといて。これから先、長いつきあいになるんだろうしさ」
「堅治、それって…」
「あー、何でもない。今の忘れて。まあ木綿でも食うけどな…って冷奴出してんのに豆腐の味噌汁!どんだけ大豆食わせるんだよ…」

(いつかもっとちゃんと、言うからさ。それは未来のお楽しみってことで。)

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