twitterであげていたおはなし。3

□運転手茂庭(出会い編)
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*使用人セッター組企画で、茂庭さんをお抱え運転手で書かせていただきました。
長編はこちらと完結編の2本ですが、twitterでその間のふたりの小ネタをつぶやいてました。




春休みの終盤、わたしは目前に迫ったキャンパスライフに胸を躍らせていた。もっと自由になれる…そう思っていたから。

幼稚園から高校まで学校への送迎が必ずついていて、放課後は習い事がぎゅうぎゅうに詰まっていた。華道・茶道・書道・バイオリン・ピアノ・クラシックバレエ…自分でもよくも毎日これに耐えたな、と思う。本当は友達と一緒に部活に入って汗を流したり、何かの大会に出たり作品を作り上げたりといった達成感を味わってみたかった。

でも、この春からは花の女子大生。

サークルに入ったり、講義の後にみんなでごはんを食べに行ったり…素敵な出逢いや経験したことのない時間に思いを馳せていたのに、残念なことにお父様の無情な一言で全ては打ち砕かれた。

「習い事は絞ってもいいが、送迎は今までどおり付ける。何かあっては大変だからな」

過保護すぎる。わたしは別に国賓でもなければハリウッド女優でもないんだから、普通に生活してれば街に溶け込めるのに。でもそんな反論は許されない。お父様の決めたことは我が家では絶対なのだ。でも、話はそれだけでは終わらなかった。

「ああ、そうだ。今までは私の運転手が交代でお前の送迎をしていたが…お前専属の運転手を雇ったから。なかなか感じのいい奴だぞ」

にっこりと笑い書斎へ戻っていくお父様。新しい人、か……どうせ口うるさいじじいだろうと期待なんてしていなかった。



庭に出ると、この前咲いたばかりだと思っていた桜が薄紅色の雨をひらひらと降らせていた。入学式には海の向こうに住むおばあさまから贈って頂いたジャケットとワンピースを着るつもり。できたら庭の桜をバックにそれを着た写真を撮り、お礼の手紙と共に送りたかったのだけれど…どうやらそれは叶わなさそうだ。日本の桜が恋しい、とよく仰ってたおばあさま。桜の写真だけでも今のうちに撮っておこうかな、なんて思っていたら。

「すみません」

振り返るとスーツを着た男の人が立っていた。年は多分20代半ば、くらいかな?身長は少し高めで、地毛かパーマか寝癖かわからないけどあっちこっちはねてる黒髪。………誰?

「ああ、やっぱりそうだ」

青年はにっこりと笑ってわたしに近づく。得体の知れない人だから普通ならもっと警戒心が生まれて、逃げ出してもおかしくないのだけど…不思議とそんな気持ちにはならなかった。

「お嬢様、ですよね」
「え、ええ…」
「はじめまして。この度お嬢様の専属運転手としてこちらでお世話になることになりました、茂庭です」

お父様が言っていた、わたしの専属運転手。それが彼…ってことなのか。

「……………」
「お嬢様……?」
「あっ、す、すみません。お父様からお話は聞いていたのですが、その…てっきり、もっとご年配の方が来るものだと…」
「ハハハッ」

快活な笑い声が庭に響く。

「確かに普通はお抱え運転手、って言ったらベテランの方を想像しますもんね」
「はい…」
「不安、ですか?」
「えっ」
「俺みたいな若造の運転じゃ、安心して乗っていただけないですか…?」

明るかった表情に少しだけ曇りが見えたのでわたしは慌てて弁解する。

「そんなこと…ないです」
「…よかった。学校もですがそれ以外のお出かけも、どこへでも安全運転でお連れします」
「……は、はい!よろしく、お願いします…」

勢いよく返事しすぎたかなと照れくさくなり、彼…茂庭に背を向けて再び桜に目をやった。

「綺麗ですね。来年、満開になっているのを早く見たいなぁ…」

後ろから聞こえた声に、どくり。心臓が一段と強く跳ねた。この気持ちの正体を知ることになるのは…もう少し先のお話。

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