twitterであげていたおはなし。3

□EVERYDAY AT THE BUS STOP
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あくびを噛み殺しながらも足どりは軽やか。だってそこには今日もきっと、いるはずだから。


入学してまもない頃、真新しい制服に身を包んだ嬉しさのあまりとんでもなく早い時間に家を出てしまった日のこと。駅に着いて学校行きのバス乗り場に向かうと同じ制服に身を包んだ先客がいた。まだ朝の7時前なのに…って人のこと言えないけど。

背の高い男の子。制服もピカピカでカバンも靴もおろしたての雰囲気からして、わたしと同じ一年生かな。順番待ちをするなら当然、ということでスッと隣に立った。そしてちらりと顔を盗み見ると、


一瞬で、恋に落ちた。


多分一度も染色してないであろう真っ黒な髪。グレーのカッターシャツからすらりと伸びた首。涼しげな目元にゆるく弧を描くまつげ。こんなにきれいな男の子がいるんだなぁと見とれていたら、下からの刺さるような視線にさすがに気づいたらしく、彼と目が合ってしまった。

「……何?」
「ご、ごめんなさ、い…」

慌てて顔を背け下を向く。しばらくしてバスが来たので乗り込むと、彼は後ろから2番目にドカッと腰を下ろした。少し離れたところに座ろうとする直前、彼の隣に置かれたエナメルバッグに目をやると「AOBA JOHSAI VBC」のロゴ。VBC…バレー部か。多分一年生の、多分バレー部の男の子。バスが学校前の停留所に着いた時も向こうはさっさと降りていってしまったから、もちろん名前を聞く勇気なんかなくて…というかそれ以前の問題か。初対面の人にじろじろ顔を見られたらいい気はしないだろう。せっかく素敵な人を見つけたのに、やってしまった…


わたしによる、わたしのための一考察。強豪と言われているバレー部だから毎日早くから朝練があるのではなかろうか。あのバスを待っていればきっと彼と遭遇できる、はず。

それからというもの、部活に入ってもいないのに家を早々に出るわたしを不思議がる母に「学校で朝、勉強するの」と取ってつけたような言い訳をする日々が始まった。毎朝同じ時間に同じバスを待っている。それだけでもいいから共通点を持ちたいし、向こうにも認識してもらいたいなー…なんていう邪な想いもちょっとだけあったりして。

隣に立ち彼をこっそり横目で見ると出会った時のように視線がぶつかった。彼は”そこに人が来た”ということを認識しただけといった様子で、すぐにふっと目をそらす。一瞬目が合う、それだけで胸がキリキリと痛んだりきゅんと甘酸っぱく満たされたりと忙しい。

たった一言しか(「何?」「ごめんなさい」は一言にカウントしていいのだろうかと思ったけど、話したことがないというと惨めになるから、この際勝手にカウントさせてもらう)交わしたことないのに、こんなにも恋しい。そりゃあ、できることなら話しかけてみたい。

クラスは何組ですか?
部活はバレー部ですよね?
部活のお休みの時って、何してますか?
…好きな人とか、彼女とか、いますか。

最初のガン見事件で警戒されてしまったかもしれないから、と長時間に渡って顔を覗き込まないようにした結果、バス停に近づくまでの間とバスを降りる時にしかじっくり見られない横顔。でも、それだけでも十分だった。毎回彼の隣に並べるとは限らず、稀にお邪魔虫を間に挟んだりもしたけどわたしの無言のアプローチは続いた。
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