twitterであげていたおはなし。3

□嶋田さんと同級生の恋。
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母校の男子バレー部が夏のインハイであの青葉城西と互角に渡り合った、というのを風の噂で聞いた。わたしの在学中はそんなに強豪ってワケでもなかったけど、卒業して数年後に全国大会の切符を勝ち取ったのは記憶に新しい。でもそれ以後はしばらく烏野高校男子バレー部の名前を聞くことはなかった気がする。

なぜそんなに男子バレー部が気になるかと言われたら答えはひとつ。好きだった男の子がその中にいたから。同級生の嶋田誠は黒髪でメガネという理知的な見た目とは裏腹に案外フランクな奴で、わたしは密かに想いを寄せていた。

嶋田、何してるのかな。

連絡先は知っているから声をかけることはできる。ただし…番号やアドレスが変わってさえいなければ。卒業後に友達と連絡を取る時に一番のネックとなるのはこれだ。知らないうちに連絡先が変わっていて相手から一方的にサヨウナラをされていると気づいた時、期待は絶望に変わる。まあダメもとで、と思い切って電話をかけてみた。通じなければ電話帳から消せばいい。届かなかった想いと一緒に。

数回のコール音の後に落ち着いた声が聞こえてきて、数年前の記憶が蘇る。

「もしもし」
「…嶋田?」
「そうだけど。物凄く久しぶりだな。元気にしてるか?」
「うん、お陰様で。嶋田は?」
「相変わらずだよ。今も実家」
「嶋田マートは健在なんだね」
「不況の波にも、コンビニや大手スーパーの圧力にもどうにか打ち勝って営業しております」
「あはは、それなら安心した」

卒業式以来の会話のはずなのにするすると言葉が出てくるからホッとした。

「で、突然どうした?何かあった?」
「なんか烏野バレー部すごいらしいじゃん」
「ああ、この前も青城に引けを取らない試合だったんだよ。俺も見に行った」
「そうなんだ…なんかさ、バレー部って聞いたら嶋田のこと思い出して」
「俺?万年ベンチだったのに?」

たまに変に鋭いんだよね、こいつは。そういうとこ昔から変わってないや。

「バレー部で一番話したのが嶋田だったから」
「あー…そういうことか。お前バレー部興味あるの?」
「まあ、どんなチームなのかなとは思うけど」
「それなら見に行く?土曜に練習試合あったはず」
「よく見に行ってんの?」
「うん、配達の合間とかに」
「行って…みようかな」
「そしたら今週の土曜、昼ぐらいに現地集合でよろしくな。じゃあ…」

久しぶりの電話はものの数分で切れてしまったけど、伝えられていない想いが未だ有効であることに気づくには十分すぎた。



烏野の体育館は卒業式以来だ。通り過ぎるユニフォームやジャージ姿の生徒にぺこりと頭を下げられ、慌てて会釈し返す。そして頼りにしてきた懐かしい顔を探すと……

「おーい、こっち!」

キャットウォークからこちらを見下ろし手を振る嶋田がいた。あの頃より大分大人になったけど、基本は変わってない。清潔感のあるさらさらの黒髪にトレードマークのメガネをかけてて。そして隣には……

「おう、懐かしいな!」

滝ノ上がひょっこり顔を覗かせた。こっちも全然変わってないや。嶋田とふたりで観戦かな、なんていう予想は裏切られたけど、旧友との再会はやっぱり嬉しいもの。

「今、行くね」

そう答え舞台脇にあるキャットウォークに続く階段に向かった。
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