twitterであげていたおはなし。3

□嶋田さんと同級生の恋。
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試合を観戦しながらも昔話に花が咲く。苦しかった受験勉強のことや学校行事で起こった事件の数々。

「体育祭の時風が強くてさ、教頭のヅラ吹っ飛んだの覚えてるか?」
「あったね〜そんなことも」
「あの教頭、まだいるんだぜ」
「しかも春先に、あそこにいるバレー部の1年がボールぶつけてまたヅラ飛ばしたんだと。3年の連中から聞いた」
「ぶっ……マジ?」
「ちなみにそれ、あの黒髪の9番な。あいつのトス、神懸かっててさ」
「そうそう、日向…あのオレンジ頭の奴なんだけど…あいつとのコンビネーションは圧巻だよな」

その時ちょうど烏野側にボールが返ってきた。リベロが拾ったボールに黒髪くんが素早く反応しトスを上げた…と思った瞬間にはもう、稲妻のような速さで相手コートにボールが叩きつけられていた。…鮮やかなオレンジ頭の子によって。

「すっ……ご……!」
「だろー?」
「たっつぁん、自分の手柄みたいに言うなよ」
「いやぁ、俺は誇らしいぜ?こんなにすげー後輩がいてよ」

嬉しそうに話す滝ノ上だったけど、あ、という間抜けな声を発して寄りかかっていた手すりから離れた。

「俺、そろそろ店戻るわ」
「おお、そっか」
「頑張れよ」

歯を見せてニカッと笑いながら突然わたしたちに向けられた言葉。

「…?(仕事のこと、かな?それとも応援のこと?)うん。頑張る。ありがと」
「はいはい、行った行った」

よくわからないまま返事をしたわたしと、追い払うようなジェスチャーを見せる嶋田。じゃあな、と手を振り滝ノ上は階下に向かう。


いよいよ嶋田とふたりきりになってしまった。もちろん試合は続いてるし他にもギャラリーはたくさんいるのだけど…なんか緊張する。さっきまでポンポンと弾んでいた会話が嘘みたいに、ふたりして黙りこくる。何でこんなに空気が重くなるのか…

「…あのさ」

しばしの沈黙の後に嶋田が口を開いた。

「今日お前が来るってわかったから、言おうと思ってたことがあって」
「えっ、何……?」
「絶対、笑うなよ?」

コートを見つめていたメガネの奥の優しい目がわたしに向けられる。

「俺、高校の時…お前のこと好きだったんだ」
「!?」
「その顔…ってことは全然気づいてなかったんだな」

こくっと頷くと、自嘲するようなため息をこぼしてから話を続けた。

「告白しようと思ってたんだけどさ、部活の補欠の奴に言われてもなぁって思って。レギュラーとったら言うって決めてた。まあご覧の通り、レギュラーになれなかったからこんなタイミングでカミングアウトしてる訳なんだけど」

あの頃から8年が経ってようやく、当時想いが通じ合っていたことを知る。嶋田はコートに視線を戻しながらぽつりぽつりとわたしだけが聞き取れるぐらいの声で語りかけてくる。

「同窓会も来ないし、大学もよそに行ったからさ…てっきり地元を避けてるもんだと思ってた。でもバレー部の活躍が気になるくらいには地元愛とか愛校心、あるんだな」
「別に避けてなんかないよ…大学は一度地元を出て生活したかったからで、同窓会は偶然予定が合わなかったから…」
「…そっか、ならいい」

ねえ、嶋田。

会話切らないでよ。好き”だった”、いい思い出だった、じゃあ今のわたしは満足できないんだよ。

「おっ、ピンサーだ。今からサーブ打つ奴、俺のとこに練習来てる奴でさ〜」
「…わたしは、嶋田が好きだよ。今も」

何事もなかったかのように振舞う嶋田を遮ったわたしの告白は、自分が思った以上のボリュームで体育館に響いていた。数人がチラチラとこっちを見ている。…そうか、サーブを打つ前って結構静かになるんだった。ゆっくりとこちらを向いた顔は激しく赤面していた。

「お前…っ、声デカイ…」
「ごめん…」

手すりに寄りかかり顔を組んだ腕の中にうずめてから、あー、とかうーん、とか言ってる嶋田はあの頃よりもなんだか幼く見えて、思わず笑ってしまった。

「わたしもね、あの頃好きだったよ。それにこの前電話した時気づいちゃったの。まだ嶋田のことどこかで諦めきれてないんだなって」
「マジか…」
「うん、マジです」
「……言ってよかった」
「よかった、じゃないよ。好き”だった”って言ったくせに」
「悪い。過去形にして保険張った。未練ありまくりだよ。まだお前のこと全然諦められそうにない」

空白の数年間が一気にぎゅっと縮まった。こんなことならもっと早く想いを伝えておけばよかったなぁ、なんて。

「じゃあ……」
「俺とお付き合い、してくれませんか」
「何で敬語なの」
「いや、歳も歳だし…軽い気持ちで付き合うんじゃないからさ」
「えっ…」
「というわけで、それでもよければお願いします」

思ってたよりもずっと長かったこの恋の賞味期限。これから先も、どんどん伸びていきますように。

差し出された左手を断る理由なんかどこにもない。ためらわず右手を重ねた。
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