twitterであげていたおはなし。3

□お悩み相談風〜岩泉くんの場合〜
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ずっとずっと好きだった岩泉くんに告白し、奇跡的におつきあいを始めることができた。残念ながらクラスが違うので昼休みにちょっと話すのと部活の帰りぐらいしか一緒にいられない。

「いつも悪いな。帰り…8時くらいになると思う」
「大丈夫、待ってるね」

彼を待つ間は受験生らしく図書室か教室でせっせと勉強に励んでいる。その休憩中、わたしはジュース片手に必ずここに行く。

第三体育館がちょうど見える廊下。

大きな窓を開け放した体育館からかすかに聞こえてくるボールやシューズの音で彼と同じ空間にいる様な感覚に包まれる。そして時折耳に入ってくる威勢のいい声や遠くにちらりと見えた黒い豆粒を彼なのかなぁと思いながら過ごすのもまた至福の時。これでまた勉強を頑張れるぞ、と元気をもらっているのだ。そしてこの後に待っている一緒の帰り道は、わたしにとって一日の最後のご褒美。このために生きているといっても過言ではない。


「待たせたな」
「お疲れさま」

つきあった当初は部活が終わってそのまま、といった出で立ちのジャージ姿で現れていた彼だけど、しばらくしたら制服姿で現れるようになった。それにもすっかり慣れたのに今日は別の違和感が。その原因は彼の後ろからはみ出ている影。

「ドーモ☆」

語尾から飛んできたお星様を、心の中でボクサー並の反射神経で無意識に避けていた。

及川徹、その名を知らない人なんてきっとこの学校にはいない。他校にファンクラブができるくらいのモテ男だ。そして何を隠そう彼の幼なじみである。…とここまでは誰でも知っている基本情報。わたしはこの人と話したこともなければそれ以上のことも知らない。誰かと話してるのをちらっと見聞きしたことはあるけども。

「岩ちゃんの彼女さん、はじめまして、だね?」
「こんばんは…」

屈託のない笑顔は確かに整っていて不快感を与える要素はこれっぽっちもない。むしろ好感を与えるだろう、大半の女子に対しては。

「岩ちゃんさぁ、水くさいよっ!つきあって大分経ってるのに会わせてくれないとか」
「別に、同じ学校にいるんだし見かけることぐらいあるだろ、それで十分だ」
「違うんだって。ちゃんと俺に紹介して欲しかったんだよ〜」
「てめぇに言うと色々うるせーし、変なこと吹き込むだろうが」
「ヒドイな!そんなことしないよ!」

でもその「大半の女子」からは残念ながらわたしは漏れている。
…うん、やっぱり苦手だ。語尾がゆるいヘラヘラとした話し方には軽いイメージしか持てない。彼…岩泉くんとは正反対のタイプだから余計そう感じるのかもしれないけど。

「俺も一緒に帰っていい?」
「ダメっつってもどうせ来るんだろ」
「鈍さに定評のある岩ちゃんなのに鋭いね」
「……手足はバレーに支障でるからな。腹とケツ、蹴られるならどっちが希望だ?」
「ご、ごめんってば!」

岩泉くんがわたしの隣にきて歩き始めたら、いつのまにか彼の逆側にスペースを占めて楽しそうに話している及川くん。ああ、わたしが待ち望んだ時間なのにな。男の子に嫉妬するなんて情けないってわかっているけど、せめてもっと仲良くなれそうな人だったらよかったのに。彼の大事な人…家族とか友達とか、可愛がっている後輩だったり、そういう人達とも仲良くなれたらどんなに楽しいだろうと思う。「岩泉くんの彼女」と認識してもらえて、わたしよりもずっとつきあいの長いみなさんから彼の昔の話を聞いたりして…そんなのは叶わぬ夢、なのかもしれない。

「彼女ちゃんは岩ちゃんのどこが好きなの?」
「え……」
「バカ野郎、何困らせてんだよ。くだらねえこと聞いてんじゃねえ」
「恥ずかしいなら俺だけに耳打ちでもいいからさ、ね?」
「え、あ…その…」

不意に聞かれて面食らう。好きなところはたくさんある。でもなんだろう、苦手意識があるからというのもあるけれど、自分よりも彼のことをたくさん知っているはずのこの人に話す気にはなれなかった。言葉を詰まらせたままうつむく。ふたりは何も言わなかった。無言のまま足だけを動かしていたら、学校の目の前にあるバス停にもう着いてしまった。いつも一緒に駅までバスに乗る。及川くんは幼なじみ…ってことはおそらく家だって近いはず。まだ、道中は一緒なんだろうな…


まもなくバスが来て及川くんが真っ先に飛び乗った。でも隣の彼は、次が自分の乗り込む番だというのに微動だにしない。とんとん、と背中に触れてみたらわたしの顔をじっと見つめた後及川くんに向き直り言い放った。

「俺ら、一本後に乗るから」
「えっ、なんで?乗ればいいのに」
「いいから、お前はこれで帰れ」
「岩ちゃ」
「こいつと、ふたりきりにさせてくれ。頼む」

彼の真剣な口調に一瞬たじろいだ後、ふうっと息を吐き手を振りながら及川くんは言う。

「…わかったよ。また、明日ね」

座席に座ってからもこちらに手を振る及川くん。でも申し訳ないことに、わたしは手を同じパワーで振り返すどころか挙げる気にもなれなかったのだ。
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