twitterであげていたおはなし。3

□お悩み相談風〜岩泉くんの場合〜
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バスが小さくなってからベンチにドカッと勢いよく腰掛ける彼。座れよ、と言われたので黙って隣に座った。きっと岩泉くんはわたしの様子がおかしいことにとっくに気づいてるんだ。嫌な子だって思われちゃったかな…絶対怒ってるよ…

「単刀直入に言うぞ。…お前、及川のこと苦手だろ」

ああ、やっぱりな。及川くんがさっき言っていたように彼には少し鈍感なところもあるけれど、やっぱりわかられてしまってたんだ。そしてわたしは完全にごまかせるほど精神年齢が高くない。

「ん……」
「返事はいらねーよ。見てりゃわかる」
「…ごめん」
「何で謝るんだ?」
「だって…」

岩泉くんの大切な人なのに。

それだけしか言えなかったのは大粒の涙が溢れてきたから。彼の周りも全部ひっくるめて好きで、同じように大切にできる人じゃないと、彼女にはふさわしくないんじゃないかって思ったから。

わたし、彼女失格だ。

その時、ガッと肩に手を置き引き寄せられた。自然とたくましい肩に寄りかかってしまう。彼は静かに話し出した。


「食いモンと同じように、人間にも好き嫌い、得意と苦手はある。アイツに関しては特に好き嫌いが分かれるだろうな。知ってるよな?ファンクラブは後輩やら他校の連中でできてるってこと。同級生の女子でアイツを追っかけてる女なんて見たことねーし、むしろクラスの女子からクソ雑に扱われてるぞ。それにお前、今日が初めてなんだろ?アイツと話すの」
「…うん」
「お前がアイツと話して気分悪くなんなら、話さなくていい」
「でも、」
「お前の彼氏は誰だ。アイツじゃねーだろ。俺は…お前が俺を見ててくれるならそれでいい。無理に俺の友達に気に入られようとして作り笑顔をしたり、合わせようと我慢してため込むお前なんて見たくないからな」

彼の言葉に押されてまた涙がひとすじ頬を伝った。彼の真っ白なブレザーに染み込んでいく、流れ出た自己嫌悪。

「でもな、一個だけ…聞いてくんねえか」
「…何?」
「これ聞いたからってコロッとアイツのこと好きになる、なんて思わねーけどさ」

前置きの後に彼が話してくれたのは思ってもいなかった事実。

「付き合いたての頃、帰りもジャージだったろ、俺」
「そうだね」
「あれやめたのな、アイツのせいだ」
「…どういうこと?」
「『汗くさい岩ちゃんと歩く彼女ちゃんの身にもなりなよ。手も繋いでもらえないかもよ』なんて言いやがって」
「…」
「俺としては、すぐにでも合流したくて着替えを省いたつもりだったんだけど。そういう、なんつーか…女子への配慮?がなってなかったんだなってアイツに教えてもらった気ぃする」

確かに及川くんは女の子に接し慣れているからそういうことに人一倍気が回るんだろうな。

「アイツはうるせーし、グズだし、余計なことばっかしてくる。でもバレーにかける情熱と真剣さに関しては、俺はアイツをすげーって純粋に尊敬してんだ。信じてんだよ、アイツとなら全国行けるんじゃねえかって」

さっきまで暴言をぶつけていた相手のことを話しているとは思えないような口ぶり。でも、そこから伝わってくるふたりが長い時間をかけて築いてきた関係を心から素敵だと思えた。

そもそも及川くんとわたしは今日がファーストコンタクト。食わず嫌いはよくないね。次に話す機会があれば今日よりはもう少しうまくやれそうな気がしてきた。のんびりでいいから彼の大切な人のことを、認めたり尊重できるようになれたらいいな。良薬口に苦し…苦手かもと思っていた及川くんのことを受け入れることができたら、わたしもきっといい方向に進めるはず。

彼の肩にもたれるのをやめてまっすぐに座り直すと、ガシッと大きな手で頭頂部を勢いよく掴まれた。

「ひぇっ」
「無駄に気合入れて、頑張ろうとか思うんじゃねーぞ。そういうのは頑張るモンじゃない」
「…!う、うん、わかった」
「あれだな、アイツのダセー話のひとつやふたつでもすれば…ちっとは親近感は沸くかもな」
「そんな話あるの?及川くんが?」
「両手両足の指全部足しても追いつかねーよ。じゃあとっておきのやつ、一個教える」

バスがくるまであと少し。思いがけず聞くこととなった小さい頃のふたりの話にくすくすと笑っていると、いきなり頬に口づける彼。

「やっぱ、そうやって笑ってるお前が好きだ。いつかアイツにその笑顔…見せつけてやりてえ」

その頃、駅に着いた及川が盛大なくしゃみをして注目を浴びていたとか、いなかったとか。


A:まぁ、無理に仲良くすることねーだろ。時間が解決することだってあると思うし。でもよ、好きな奴の周りにいる奴ってのは、お前と同じようにそいつのこと好きだったりそいつを大切に思ってるんだ、って思えば…同じ仲間みてえなもんだろ。きっとどっかわかりあえる部分もあるんじゃねーかな、って俺は思うけど。そう考えると少し楽にならねーか?
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