twitterであげていたおはなし。3

□飲み会終わりの彼女を迎えに行く話。
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金曜の夜、会社の近所にある居酒屋で開かれた飲み会。無礼講とまではいかないけど、やっぱりお酒が入ると普段オフィスではしない話が飛び交う。特に……

「統括部長の奥さんってお若いらしいですね」
「そうそう、一回り下なんだってさ」
「先輩、この前生まれたお子さんの写メってないんですか〜?」
「あるよ〜見る?」
「へぇ、6人兄弟なんだ!?今時珍しいね」
「そうなんです、俺は上から3番目で…」

身内の話になるのは致し方ないものなのかも。どんな家族がいるのかってわかると、人となりがわかって親しみやすくなったりするし。わたしが独身の一人暮らしってことは部署のみんなは知っていて、そうなるとおのずと。

「ね、彼氏いるんだよね?」

ほら、やっぱりこの話題になった。女子社員の割合が高い今の部署に配属になってから、右手の薬指に通した指輪を見て「彼氏いるんだ?」と尋ねられるのにそう時間はかからなかった。そして隠す必要もないかなとその時に「はい、います」とあっさり答えたばっかりに、今まさにお酒の力を借りた諸先輩方や上司から集中砲火に遭うのだった。

「何歳?何してる人?」
「どうやって知り合ったの?」
「芸能人で言うと誰に似てる?」

矢継ぎ早に飛んでくる質問、どれひとつとして無視は許されない。丁寧にひとつずつ答えてゆく。

「同い年で、SEをやってます」
「共通の友人の紹介で知り合いました」

最後の質問には、以前会わせた友人から似てると言われたので某アイドルグループのメンバーをあげておいた。

「えーっ、会ってみたい!呼んじゃおうよ」
「いいね、一緒に飲もう!」

お調子者の先輩達がとんでもないことを言い出した。会社の飲み会に彼氏を呼ぶなんてありえないだろうが、と冷静に脳内でツッコミながら対処する。

「あはは、無理ですよぉ〜(なんつーこと言うんだこいつ…)」
「連絡してみたら?意外と来ちゃうかもよ?悪い虫ついてないか心配で…とかさぁ!」
「いやいや、そんなことないですって(むしろ後でわたしが大変なんですけど)」
「そうだな。いいじゃん、呼んじゃえば」
「ですよね〜ほら、課長も言ってることだし」

……最悪だ。よりによって課長までこのくだりに首を突っ込んでくるとか。

わたしの彼氏――英は、人見知りとまではいかないけど静かなタイプでこういうノリはあまり好きじゃない。大体仕事が終わって家に帰っているこの時間にわざわざ呼び出すとか、一番嫌がるだろうなぁ。

「ほら、電話かけて!」

テーブルの上に置いてあったわたしのスマホを手に取り突き出してくる先輩、ニコニコ顔の上司。

…逃げられない。英、ごめんね。心の中で謝りながら電話をした。3コール鳴った後に間延びした声が聞こえる。

『はーい』
『もしもし、急にごめんね。今って家にいる?』
『…いるけど、どうかしたの』
『あのさ、わたし会社の飲み会に来てるんだけど』
『知ってる』
『えっと…とりあえず後で謝るから一旦聞いてくれる?』
『もったいぶるね、何?』
『あのー、会社のみんながですね、英に会ってみたいって…』
『はぁ?』

あああ…やっぱりそうだよ、この反応。絶対にこの冷たい疑問符が飛んでくると思ってたんだ…

『みんなに英のこと聞かれて。それで一緒に飲んだらどうかって…』
『…俺の何を話したんだか知らないけど、そういうのはパス』
『そうだよね、疲れてるもんね…ごめんね、じゃあ』

よし、これで英を面倒なことに巻き込まなくて済みそうだ。後は次に会った時に英に謝ればいい。わたしの思い描いた方向に話が進むと確信したその時。

『待って』

電話の向こうで聞こえた抑え目ながら強い声に肩がびくっとなった。一体何を言われるんだろうかとドキドキしていたら…

『飲み会終わるの何時なの。それぐらいの時間に迎えに行くから。会社の最寄駅に』
『っ、え!?』
『店は何時まで?そっちの駅まで30分くらいかかるな…』
『えっと、22時で解散の予定、かな』
『…わかった、今から行く。駅ナカで待ってるから、じゃあまた後で』

一方的に切られた電話。呆然としているわたしに周りからは期待の入り混じった視線が集まる。

「どうだった?」
「あの……ここには来ませんけど、駅まで迎えに来る、らしい、です…」
「「おおーっ!」」

どよめきを無視して一人、飲みかけのグレープフルーツサワーをぐいっと飲み干した。どんな顔で現れ何を言われるのか、気が気でない。
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