twitterであげていたおはなし。3

□飲み会終わりの彼女を迎えに行く話。
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赤ら顔の課長を筆頭にみんなで駅に向かう。この駅は大きくて何種類も路線が通っているけど課員の8割以上が同じ改札を通った。ポケットに走った振動に慌てて手を入れると英からのメール。

『どこいる?』

中央改札を抜けてすぐの場所、これから各自使う路線にばらけるところだと伝えた。

「彼氏くんどっからくるのかね。どんな子かな〜」

先輩は呑気だ。後でねちねち言われるかもしれないわたしのことなんてお構いなしでキョロキョロしている。早く帰りたい…と気分が一段と沈んでいるわたしの頭に、その時ぽんと何かが乗り、その後掴まれる感触。振り返るとわたしの頭をわしっと掴む私服姿の英が立っていた。

「あ、きら…」
「よっ」

もう片方の手をサッと挙げる。先輩方はキャーキャーと騒ぎ立てた。

「この子が彼氏なの?かっこいいじゃん!」
「背ぇ高いね〜モデルさんみたい」 
「デコボコカップルかぁ〜可愛いね」

英はこんな風に絡まれるのが多分嫌いだ。絶対イヤな態度を取るだろうなぁと恐る恐る彼の顔に再び目をやると…

「はじめまして。いつもコイツがお世話になってます」

いつもの味気ない無表情が嘘みたいなやわらかい笑顔を浮かべ、その後に深々とお辞儀をした。課長も先輩達も満足そうにしていて、どうやら機嫌を損ねずに済んだみたい。

「じゃあ、引き取りますね。失礼します。ほら、行こう」

そう言うとわたしの手首を掴み引っ張っていく。わたしは慌ててみんなに頭を下げ、早足の英についていくため必死で足を前に運んだ。



「英、待って、早い…」
「だって次の電車もうすぐだから。これ逃すと15分空くんだよね。とりあえず疲れた。眠い。早く帰ろう」
「あっ、ちょ…待って、」

彼は手を離してくれない。わたしと彼の家はこの駅を挟んで反対方向にある。使う路線は別なのだ。

「わたしこっちじゃない…1番線なんだけど…っ」
「今日は何曜日ですか」
「え、金曜…だけど?」
「明日、会社は?」
「休みだよ、って…知ってるくせに」
「ならいいじゃん、うちに泊まってけば」

自宅を行き来するのに、電車で片道1時間以上はかかる。予定が特になければ、毎週土曜にわたしが彼の家に行き日曜の夜に自宅に帰る、それがお決まりだったのだけど。

「明日行くつもりだったよ?」
「今夜から泊まれば」
「だって着替えとかメイク道具とかない…」
「そんなの別にいいだろ」
「英はよくてもわたしは気にするの。デートにいけないし」
「今週は、家デートしたい気分。それならいいでしょ?」

180越えの男が小首を傾げる。字面だけ見たら気持ち悪いって思うよね、普通。でも違うんだな。さらっと揺れた髪、艶めく黒い瞳…わたしの中の小さいわたしが叫びたいのや悶え転げ回りたいのを必死にこらえてる。彼のお願いはそれぐらい威力抜群で心臓にとっても悪いのだ。

「わかった…」
「うん。じゃあ、行こ」

しっかりと手を繋いで目指す君の家。2回連続で朝を一緒に迎える、こんな週末も悪くない。というか…そうか、これから金曜はお泊り道具一式を持って出社すればいいのか、なんて思うわたしだった。

(ん…待てよ?家デートって言うけど…むしろ遊びに出かけることの方が少なくない…か?ま、いっか。)
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