twitterであげていたおはなし。3
□同期の赤葦くんとお花見のお話。
1ページ/2ページ
社会人生活が始まってわずか数日にして、面倒かつ今後の運命を左右しかねない仕事を押しつけられた。
お花見の場所取り…それは全国的にも習慣化している新入社員の最初の大仕事だと思う。業後の夜桜ライトアップに合わせての開催、ということで…
「じゃあ、ふたりとも場所取りよろしく!特等席頼むよ〜」
課長の笑顔が憎い…と言いたいところだけど今回ばかりはグッジョブ!と親指を立てたい。だって、課長の目の前でわたしの隣に立っているのは……
「はい。楽しいお花見になるよう尽力します」
長身にスーツがよく似合う、同期の中でも一番人気の。
「じゃ、行きましょうか」
“あの”赤葦くんなのだから。
課長のデスクからふたりで離れると、荷物を纏めて向かうのはオフィスのあるビルから地下鉄で数駅先にある、桜の名所である公園。既に花は見頃を迎えていて、平日の夕方だと言うのに意外と園内は賑わっていた。
「どこがいいと思います?」
「そうだね……あ、芝生広場があるみたい」
「じゃあ、そこにしましょう」
ブルーシートを抱えた赤葦くんが自分の隣を歩いてるなんて夢みたいだ。
昨秋の内定者懇親会で、女子に囲まれ質問攻めにあうその姿をわたしは遠目で見ているだけだった。自分にはご縁のない人、強いて言えば同じ会社に内定したっていう縁ぐらいかな、なんてぼんやり思っていて。
それなのにいざ入社して配属された部署に、新人はわたしと赤葦くんのふたり。他の同期には死ぬほど羨ましがられたけど、その分変な緊張もある。同期のみならずきっと先輩女子にも彼は人気が出るだろう。
同期ってことで一緒にいる機会は多いし、万が一イヤガラセされて居心地が悪くなったりしないだろうか、なんて不安に思ったりもした。今だって、ふたりでお花見の場所取りなんて他の部署のみんなに知られたら…と思うと気が気でない。
「ここにしましょう」
「そうだね」
芝生広場に着くと、一際きれいに花を咲かせている木の下が運良く空いていた。持ってきたブルーシートをふたりで広げ、任務完了。飲食物は後からくる先輩社員が手配してくれるので、あとはここでひたすらみんなの到着を待つばかり。
パンプスを脱いでシートにぺたりと腰を下ろすと、彼もポイッと革靴を脱ぎ捨てこちらは大の字に寝そべった。
「…ぷっ」
「どうかしました?」
靴の投げ捨て方といい寝転び方といい、普段の彼とはちょっと違う子供っぽさにわたしは思わず笑ってしまったのだった。
「なんか、イメージと違うなぁって」
「俺のイメージ?どんな?」
「そうだね……しっかりしてて、冷静で、デキる人って感じかな」
「へぇ…」
「あとは女の子にモテそう。っていうか、モテてる」
「そうでもないですけど」
ブルーシートにはらりと落ちてくる花びらを眺めながらのんびりと進む会話。でも、配属されてまだ数日、おまけに懇親会でもろくに話していないからかどこか空気はぎこちないまま。そうか、原因はアレだ…
「赤葦くん」
「何ですか」
「敬語やめない?同期なのにわたしだけタメ口って…」
「別に、俺はそれでも構わないですけど」
「わたしはそれだとやりづらいよ…普通に話そう?」
「高校の時の部活で、先輩に一人だけ混ざった時期があったんで。多分そのせいで敬語が基本になってるんだと…思う」
「無理にとは言わないけど、同級生なのに敬語だとさ…」
勢いに任せて結構大胆に距離を詰めようとしている自分に驚いた。でも赤葦くんは、
「確かに一理ありますね。じゃ、徐々に崩しま……崩すね」
あっさりと承諾してくれたのだった。
「さっき、イメージとか言ってましたけど…俺、家だといつもこんな感じで」
「そうなんだ」
「会社はまだわからないことだらけで神経も使うし…家にいるとか、こういう時くらいのびのびしたい」
大人びて見えていた彼は、重圧から開放されるとこんなにも無防備なのか。それをこうやって独り占めしてしまっているとはなんて贅沢なんだろう。
「同期はたくさんいるけど、まさかあなたと同じ部署になるとか…」
「何、ご不満?」
「そんなこと一言も言ってないし微塵も思ってない」
「含みがある言い方しないでよ」
「ごめん。でも…こうやって話せてよかった。今まで中々じっくり話す機会もなかったし」
話せてよかった。
そんな感想を彼からもらったら有頂天になってしまう。というか、ならない女子なんているのかな?人気者と同じ部署にぶちこまれた不安、でもあわよくばお近づきになりたいと思っていたかすかな希望。それらを全部くるんでくれた言葉に胸が熱くなった。