twitterであげていたおはなし。3

□同期の赤葦くんとお花見のお話。
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大分薄暗くなってきた時、遠くからガヤガヤと声が聞こえてきた。声のする方に目をやると課長や先輩方がビニール袋やら段ボールを手にこちらに向かってくる。赤葦くんはむくっと起き上がって革靴を素早く履くと集団に駆け寄り、先輩女子社員の持っていた荷物をスマートに奪う。

「赤葦くん、場所取りお疲れさま」
「いえいえ。これ、俺が持っていきます」
「ありがとう」

お姉さま社員の頬は緩みきっている。ほら、やっぱりこうやって君は無意識に人を惹きつけてしまうんだ。

赤葦くんは桜に似ている。

毎年同じように何気なく咲いていても、自然と人が集まるとことか。主張は強くなく、むしろ控えめな色なのにみんなの心を捉えてやまないとことか。

桜の花が年に一度しか咲かないのと同じで、わたしと赤葦くんがお花見をするなんていうのもこれっきりなのかもしれない。会社だから異動もあるだろうし、来年はここで同じ景色を見れない可能性だってある。それでもやはり惹かれてしまう、不思議な人。



「かんぱーい!」

威勢のいい掛け声の後、ビールやチューハイの缶を開けるぷしゅっという小気味いい音があたりに響く。しばらくすると目の前のブルーシートに陰が差した。振り返り見上げると、そこには。

「…隣、いい?」
「あっ、うん…」

あぐらをかきながらビール片手に桜を見つめる横顔はほんのり赤い。あっちこっち向いているクセのある髪が花風に揺れる…その様をこっそりと盗み見ていたら、視線こそ合っていないのにまるでそれに気づいたかのように話しかけられた。

「いい場所取れてよかったね」
「うん」
「でも、残念」
「何が?」

わたしの質問に桜から目を離さずに答える赤葦くん。

「場所取り、最初で最後だから」
「来年もやりたいの?サボりたいから?」
「…はぁ。わかってないか」
「ん?」
「何でもない。これから一緒に頑張っていこう」
「うん、よろしく。……?」

酔って気分がよくなっているからか、彼がこちらを向き口の端にわずかに笑みを湛え、ずいと手を差し出してきた。戸惑わなかったといったら嘘になる。でも、それよりも喜びの方が大きい。がっちりと交わした握手の余韻を噛みしめながら、今年の役目を終えようとしている花の散り際を見届けた。

新しい世界に溶け込むにはまだまだ時間が必要だし不安もあるけど、ひとりじゃない。
一緒に進んでいける心強い味方がいて、しかもそれが君だなんて。
夢か現か…それはこの手に残った熱が何よりの証拠。
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