twitterであげていたおはなし。3

□保健室で国見ちゃんとバッタリなお話。
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絶対に、やばい。起きてすぐに自分の異変に気づいた。頭がガンガンして重くて、体の関節が痛い。滅多に風邪をひかないわたしだけど今回ばかりは確信がある。

インフル、かかったな…

思えば先週から、他のクラスでインフルエンザが猛威をふるっていた。うちのクラスではまだ感染者は出ていなくて「ここのクラスは健康優良児が多いんだな」なんて、授業に来る先生が何人も同じセリフを吐いていったのに。どうやらわたしはめでたく感染者第1号の称号を得られるようだ。母が「あんた顔赤いよ?熱測りなさい」と押し付けてきた体温計。脇に挟んで数分後…

「36.8℃」
「少し平熱より高いぐらいか。まぁ、ならいいけど」

嘘です。本当はそれにプラス1℃。だるさを隠して制服を着ていつものバスに乗る。土日にバッサリとショートカットにしたからすーすーする首元に、長いマフラーをぐるぐるに巻いて。


「おはよう」
「おはよー…って髪!切ったの?ショート可愛いね!」
「思い切ったね〜」

教室に入るなり友達が変化に気づいてくれたのは嬉しい。失恋か?なんてニヤついてきた男子には一発蹴りを入れておいた。「まだ」失恋してないもんと一言添えて。

何を隠そうわたしには好きな人がいる。顔や態度に出やすいからか、クラスの大部分がその人物が誰なのかを知っている。というか、本人だって気づいているだろうなとわたしは思っている。それくらい日頃から熱烈にアピールしているのだ。わたしがしんどい体をおして登校するのも、彼に会いたいから。切りたての髪を見て、何か反応してもらえないかなって期待しているから。



わたしが想いを寄せている国見という男は、いつも気だるそうにしていて口数もあまり多くない。でも同じ中学の子となるとそこそこ会話は弾むみたいだった。入学して間もない頃、彼と同じ中学の友達づてで音楽とサッカーが好き(ただし国見はバレー部なのだが)ということで意気投合し、話すようになった。

わたしが国見に恋心を抱くのにそう時間はかからなかった。既にその存在をがっつり意識していたある日、土曜日の補講に向けて友達と数学の課題を解いていた時。思うような答えにならず、うんうんと悩んでいたらスッと横に来てプリントを覗き込まれて。

「国見。あ…数学得意、だっけ?教えて」
「えーっと……そこ。2XじゃなくてXの二乗だろ」
「え?……あ!そっか」
「…プッ。お前、そんなんで補講大丈夫?数学、一番上のクラスに振り分けられてたじゃん」
「あれは運が悪くて…国見が居眠りしてなければ本当は1組だったはずでしょ?そのせいでわたしが勝手に繰り上げられたんだよ」
「ご愁傷様〜」
「こらっ、待て!帰るな!」
「帰りませーん。これから部活だし」

舌を出して教室を出て行く姿に、もう!と怒りながらも内心はドキドキが止まらなかった。覗き込まれることで自然と近づいた距離、そこだろと指差した時に触れた手。最後には珍しくおどけた表情も見れたし、こんなに会話ができたなんて…と幸せの極みだった。わたしが国見に対して毎日積極的に話しかけにいくからか、周りにはその好意はバレバレ…ということで今に至る。



1時間目が始まり、頭痛がどんどんひどくなる。先生の説明なんて頭に入らないし、何より……前方の空席が気になってたまらない。空いている席は、国見の席。朝練に出るから遅刻なんて一度もないのに何で来ていないのか。もしかしてわたしと同じインフルなのかなぁ…なんて考えているうちにようやく長い長い授業が終わった。

顔赤すぎる、やばいよ、と言われたので意を決して保健室に向かった。確実に早退を言い渡されるだろうと思いながら。保健室のドアを開けると、目が合うなり先生に「インフルでしょ?とりあえず体温測って!」と体温計を押し付けられた。クラスと名前を告げたら先生は名簿を確認し始めた。きっと親に連絡するためだ。

「…測れました」
「貸して。…あー、やっぱりね。38.2℃。今朝は測ったの?」
「37.8…でした…」
「バカねぇ、無理に来ることないじゃないの…そこのベッド空いてるから寝てなさい」

のそのそとナマケモノのように歩き上履きを脱いでベッドに寝転がる。

『国見に会いたい』

わたしを学校まで運んできたその意思も今や風前の灯。熱が上がって本格的に自分が病人なのだと認めざるを得ない状態になったから、一気に弱々しくなるメンタル。気づいたらシーツに涙が落ちていた。先生にバレないように嗚咽を抑えていたら、背中にとん、と何かが触れた。寝返りをうつと、そこには。
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