twitterであげていたおはなし。3
□保健室で国見ちゃんとバッタリなお話。
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「くっ、く!?えぇっ!?」
「シーッ、静かに」
ベッドの脇にしゃがみこみ、人差し指を唇に添えたそのジェスチャーが涙でぼやけて見える。でも、確かに目の前にいるのは国見だ。
「な…んで、ここに…?」
「朝練の時にちょっと調子悪くなって、寝させてもらってた。……ってのは口実で、眠くて。先生に言うなよ?」
わたしが教室で死にそうな思いをして机にかじりついている間、こいつはぐーすか呑気に寝ていた、というのか…なんか悔しい。
「お前、顔真っ赤。どうした?」
「インフルになったっぽい」
「マジか…じゃあ近づかないようにしよ」
わざとらしくのけぞる国見を、きっとわたしは恨めしそうな目で見ていたんだろう。冗談だから、と言ってまたさっきまでのようにしゃがみこんだ。
「どうせ無理してきたんだろ?皆勤賞取る、ってはりきってたもんな」
「うん…」
「1日ぐらい休んだって別にさ…よくない?そこまでやる必要あるかね…」
国見の呆れた顔と口調にわたしは真っ向から反論した。
「よくない。国見に会いたいから、這ってでも来る」
わたしがいない間に他の子が国見と仲良くなったら嫌だもん。それに毎日姿を見られれば大嫌いな授業だって頑張れる。ちゃんと大事な時に言うために、好きって言葉は言わないよ。でもこれぐらいは言わせて。今のわたしの精一杯のあがき。
国見はうつむいて黙ったまま。そりゃあ気まずいよね…本人だってわたしの想いに気づいてると思ったからいいやと判断して言ってしまったけど、やっちまったかな。なんて少しばかり後悔しかけたその時。カーテンをジャッと勢いよく開けて国見が先生に話しかけた。
「せんせー、俺、もう大丈夫です」
「あら、国見くんよくなったの?無理はしないようにね」
「いえいえ、ありがとうございました」
なーにが「ありがとうございました」だよ!サボリだったくせに…とは言えないから2人のやり取りをベッドの上から見守った。
「あ、あそこに寝てるの俺のクラスの奴なんですけど」
「ああ、確かにそうね、6組…あの子インフルエンザみたいだから親御さんに迎えに来てもらうのよ」
「そしたら俺、教室戻ってこいつの荷物持ってきます」
思いがけない提案をされて、つい割り込んでしまった。
「ちょっ、国見!?」
「教室で菌ばらまかれてもよくないだろ。とりあえず持ってくるから寝てなよ」
「あら優しい。お願いね〜」
何も知らない先生はのほほんと国見を見送る。わたしはベッドに倒れこみ布団を頭まで被った。荷物を持ってくるってことは…すなわちまた会えるってことだ。
やばい、めっちゃ嬉しい!!!
嫌いなら、荷物持ってくるとか言わないよね?ベッドで寝てても、声掛けないよね?なんて…恋をすると人はとことん都合のよい思考回路になるものでタチが悪い。強いて言えば、髪を切ったのに気づいてもらえなかったことが残念だけど…それも裏を返せば、髪型が変わってもわたしだって認識してくれてるってこと。そう思うことにしよう。
恋のウイルスは、インフルよりもやっかいだ。