twitterであげていたおはなし。3

□黙っていればの国見ちゃん、だった話。
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「ぶっ……くっ、あはははっ」

普段の姿から想像できない、国見くんの笑い声が教室に響いた。ひーひー言いながらその大きな目に涙まで浮かべている。…そんなに笑わなくてもいいのに。

「国見くんも、笑うんだね」

ダサイ一部始終を目撃されいたたまれなくなったわたしは苦し紛れに言った。基本無表情であまりしゃべらないし、笑うイメージが正直なかったというのもあるが、これが精一杯の強がりだ。国見くんはどうにか笑いをおさめて制服の袖で目尻に光っていた涙の粒を拭うと、さっきまでの笑いが嘘みたいに静かに話し出す。

「いくら人形みたいとか言われても俺だって人間なんだけど」

その言葉に思い当たるフシがありすぎてギクリ。

「あ、この前の…もしかして聞こえてたんだ?」
「あんなでかい声で言っといてよく言うよ」
「ごめん…(って、言ったのは友達なんだけどな)」

条件反射のように謝ると、彼はわたしの心を読んだかのように

「別にいいけど。それに言ったのはお前じゃなくて相手の子だから、ごめんとか、いらない」

そういってフイッと目をそらして正面にある何も書かれていない黒板を見つめ始めた。ちょうど夕暮れどきで、こちらからは国見くんがシルエットに近い状態になっている。長いまつげがしぱしぱと瞬いているのがとてもきれい。

「感情くらいあるよ、フツーに」

ぽつり、とこぼされた言葉がどこか寂しげに聞こえたのは気のせいだろうか。

「感情がないなんて言ってないよ。ただ、何考えてるのかわからない人だなぁって思うけど。……あっ」
「…やっぱそういう印象なのか、俺って」
「………うん」

嘘がつけないわたしはバカ正直に言ってしまった。うつむいて、何かいいフォローの言葉はないだろうかと必死に考えていたら「あのさ」と声をかけられた。恐る恐る顔を上げると、国見くんはわたしをまっすぐに見ていた。

「これ、誰にも言ってないんだけど」

そんな、ちょっと期待してしまうような特別な響きがする前置きの後、彼は予想もしない告白をした。

「俺、笑いのツボ意外と浅くて」
「へ、へぇ…そうなの…?」

拍子抜けしつつも、あの寡黙でミステリアスな人が自分のことを話すなんてすごく貴重だから、と耳を傾ける。淡々と続く少し低めの声がなんだか心地いい。

「でも、バカ笑いすんのもカッコ悪いし、普段笑いそうになった時は必死にこらえてる」
「普通に笑えばいいのに」
「一度笑い出すと、さっきのお前の神がかったコントを見た時みたいになるから大変」
「…国見くんさ、わたしと今日初めて話すのに結構言うね?」
「ごめん、悪気は無い。あ、そういえば…この前昼休みに廊下で滑ってロッカーに激突してたよね」
「…ぐっ」
「あれ、本当拷問だった。笑いたくても周りに人がいっぱいいるし、しかも騒ぎの中心が自分のクラスの人間だし…あれで腹筋がかなり鍛えられたかも」
「こらっ!」

一喝しながら拳をふりあげてみせると、国見くんはさっきみたいな笑い転げるのとは違って、歯を見せてニッと笑った。

…ああ、やっぱり。

どこかで予感がしてたんだ。この人の自然な笑顔はきっと素敵なんじゃないかと。自分のドジの数々を笑われバカにされたことなんて正直どうでもよくなってた。「じゃあその鍛えあげられた腹筋とやらを確かめてあげようか」なんて言いながらおなかを殴ろうとするモーションを見せるけど、内心はにやけないように必死。


ようやく日誌を書きあげて席を立つ。同時に国見くんも「じゃあ俺も帰る」と一緒に教室を出た。廊下を並んで歩きながらおしゃべりは続く。

「国見くん、黙ってると本当王子様みたいなのにね。しゃべると結構毒舌だし、笑い転げてる時割とひどい顔だったよ」
「…っ、はぁっ!?」
「みんなのイメージと全然違う」
「…そりゃあ悪かったね。でも残念、これが俺です」
「ま、わたしはこっちの国見くんの方が話しやすいけどね」
「ふーん…」
「少しずつみんなの前でも遠慮せず笑えばいいじゃん」
「笑うって…こんな感じ?」

口角を上げ、目尻を下げたその顔はさっきよりも数段優しくて甘くて…

「や、やっぱいい!今まで通りでいいと思う」
「なんだよ、やらせといて」

くやしいけど、今の笑顔の破壊力は誰にも教えたくない。

「そういや部活はどうしたの?もうこんな時間だよ?」
「そっか、お前知らないのか」
「何が?」
「今日は月曜日。俺らバレー部の週に一度の休養日」
「部活ないなら早く帰れたんじゃないの?」
「……察しろよ」
「え?何?聞こえな」
「いいから、月曜日は休み。それちゃんと覚えておいて」
「?……わかった」

職員室に日誌を出して廊下に戻ると、先に帰ったと思われていた国見くんがなぜか扉に寄りかかってわたしを待っていた。目の前に行くと扉から背中を離して歩き始めたから、なんとなくわたしも引き続き隣についていく。

「この後どうすんの?」
「普通に帰るけど」
「バス?歩き?チャリ?」
「バスだよ」
「へぇ、奇遇。俺もバス」

そう言ってポケットからスマホを取り出すと同時にチャリンと音がした。国見くんは廊下に落ちたそれを素早く拾って何事もなかったかのような涼しい顔でポケットに再びつっこんだけど…
一瞬見えちゃった銀色に輝く鍵。
それが何なのかは聞かないでおくのがよさそうだ。
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