twitterであげていたおはなし。3

□恋をして臆病になる岩ちゃんの話。
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「ってぇ……」
「バカじゃないの?」

彼女は眉と、少したれ目がちな愛らしい目を吊り上げている。怒らせてしまったのは一目瞭然だ。こんな距離で顔を見るのも、この小さな手が俺に触れてくれるのも最後になってしまうのか、と思っていると彼女はキッパリと告げた。

「嫌いになんて、なるわけないでしょ」

その力強い言葉に目を見張っていると、触れていただけの手がそのまま頬をやわく包み込んできた。相対しているのは彼女なのに、どこか母親のような感覚。手のひらから伝わるほのかな熱に心まですっぽりと包まれてるみたいだ。

「あのね、はじめは気にしすぎ。好きじゃなきゃ一緒にいないし、思ったことを素直に言おうとも思わないよ、わたし」

その瞳は俺だけをぶれずに映している。

「わたしに言われたから全部その通り、とか不自然じゃない?そりゃあ、好みじゃないとか言われたから仕方ないかもしれないけど…」
「俺は…お前が俺と一緒にいて、少しでも違和感を感じたり引っかかる部分があんなら解消したかっただけだ」

言い訳がましくなるのも、必死なのも、お前だから。お前に負の感情を少しでも抱かせてしまうなら、その原因は全部取っ払いたい。

「わたしは、『うっせー』ぐらい言い返してくるはじめだとしても変わらず好きだよ」
「…」
「『これが俺のスタイルだ!』って押し通すはじめでも、受け入れるし」
「…」
「ねえ、もっといい意味でぶつかろう?遠慮されてるような気がして寂しかったよ。だから敢えて話してみたの」

普通にしてるつもりでも、俺の不安は外に漏れ出てたみたいだ。

「ちなみにシャツのこと言ったのは、好みの問題もあるけどもうひとつ理由があって」
「…何だよ」
「進路希望がどうなのか知らないけど、面接とかあってその時だけ繕っても雰囲気に出ちゃうよ。日頃から服装もきちんとしとくのがいいんじゃないかなって思ったの」

俺のことよく見てたんだなっていうさっきの驚きに加え、そんなことまで見据えてたのかよ、と…もう彼女には何もかも敵わない。

「…有難いアドバイス、頂戴しとく」
「うん」
「でも、申し訳ねぇけど俺はこの格好が一番楽だから。必要な時はビシッと決めるから普段はこのままでいく。それで…いいか?」
「もちろん」

彼女がにっこりと微笑んでくれたから胸のつかえがとれた。嫌われるのを恐れる気持ちは完全にゼロにはできないけど、それでも今日、俺は少し前に進めた。

いつか言ってみてぇもんだ、「こんな俺でいいならついてこい」ぐらいのことを。


「じゃあついでにもうひとつ言っていい?」
「何だよ」
「あのTシャツのセンスどうにかならない?何よ『根性論』って」
「べ、別にいいだろ。根性は何事においても大事だからな」

自分を抑えて殺さなくてもいい、違うところ、合わないところがあっても無理に形を変えることはない、それすら含めて君だから。そう言える彼女は俺なんかよりずっと男らしいっつーか、たくましいっつーか。

ひとりで戦わなきゃいけねぇって思ってたけど、違うな。恋はふたりで作ってくもんだし、隣にお前がいることがこんなにも頼もしいなんて。

彼女に向けて、心の中でそっとつぶやく。

―お前がいれば、俺は最強だ。
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