金国♀シリーズ

□Vol.1
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ぐるぐるに巻いたマフラーに挟まった、幾束かの髪さえ引っ張り出す。そんな風が吹きさらす放課後の体育館裏。目の前にいる、青と白のジャージに身を包んだ長い影は紅潮させた顔のまま「えーっと」とか「うーん」とか言葉にならない声を出し続けている。かれこれ20分くらいは。

「あのさ、ずっと言いたいことがあって…」
「何?」

早くしてほしい。寒さに耐えられないのもあるけれど高校受験を控えて追い込みの時期なのに。風邪を引くのも勉強に遅れをとるのも困るのだけど。

「俺な、国見のこと…その…」

うぬぼれなんかじゃなくても、このシチュエーション、この言い回しに何も感づかない女の子なんているわけない。

「かっ、可愛いな、って思ってて…」

そりゃ、どーも。

「図々しいかもしんないんだけどさ、よかったら…」

あ、来るぞ、来るぞ。

「俺とつきあってほしいんだ!」

はい、来た。

彼はわたしの淡々とした脳内実況なんて想像もしていないのだろう。言いたいことを言えてすっきりしたからか、堰を切ったように話しだした。

「入学式で見かけた時から、いいなって思ってて。まさか3年間も一緒のクラスになれるなんて夢みてぇでさ。可愛いし、頭だっていいし、控えめというかおっとりしてるっていうか…とにかく、好き、なんだ。お前のこと」
「ごめんなさい」

彼の熱い想いをたった6文字で封殺するなんて、冷たいかもしれない。でも下手に期待を持たせて振り回すぐらいなら、はっきりとお断りした方がいいんだと思ってる。年明けから数えてもう5人目。受験や卒業が迫ったからか、こういった呼び出しが増えてわたしは辟易していた。でも彼はそんなわたしの一言に眉を釣り上げるどころかむしろ申し訳なさそうに八の字にして頭を掻いた。

「そうか…やっぱ、そうだよな」

やっぱ、ってことは最初から断られると思っていたんじゃない。だったら言わなければいいのに。そうすれば時間も勇気もエネルギーも無駄遣いしなくてすむのにさ、なんて思うわたしは人間味に欠けてるのかな。

「ちなみに、さ。聞いてもいい?」
「何?」
「国見は、どういう奴が好きなんだ?あ、今つきあってる奴とかいる…のか?」
「誰ともつきあってないよ」
「そっか…よかった」
「……」
「あ、よかった、じゃねーよな。俺、フラレたくせに…悪い」
「別に、謝ることないと思う」
「どういう奴なら、振り向かせられるのかなぁーなんて…純粋に…聞きたくて。気分悪くしたらゴメン」
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