金国♀シリーズ

□Vol.3
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壁ドン男の襲撃を受けた翌日。教室に入るなり数人の女子にバッと囲まれた。今までにこんな経験がないから面食らう。

「「国見さんおはよう!」」
「おはよう…」
「ねえねえ、聞いてもいい?」

好奇心をたっぷりと含んでいるその目に、話しかけられたことを好意的にはとれなかった。そしてその予感は見事に的中する。

「隣のクラスの金田一くんとつきあってるって本当!?」
「え…」
「本当なの?」

わたしは日頃、自分から金田一に話しかけることはない。ただ、隣の教室ということもあって休み時間や移動時などにすれ違うことは普通にある。その時に金田一から「よう、お疲れ」とか一言掛けられるだけなのだけれど。どこをどう見たらつきあっているように見えるんだろうか。

「何で…そういう話に?」
「えーっ、だって今朝から学年中、いや、下手したら学校中がその話題で持ちきりだよ?サッカー部が情報源らしいんだけど」
「サッカー部?………あっ」

思わず声が漏れたのは十分に思い当たるフシがあったから。

きっと、いや…間違いなく昨日のあの人。周りからジロジロ見られるハメになったからと仕返しのつもりなんだろう。告白を断ったわたしと、邪魔をした金田一への。

「つきあってないよ。同じ中学なだけ」
「そうなの?でも金田一くんは嬉しいだろうね。だって国見さん美人だし…」
「そうそう。金田一くんってイケメンではないじゃん?それなのに噂になるとか、鼻高々だと思う」
「みんな言ってるよ、美女と野獣だって。あと、国見さん男の趣味変わってるなぁって」

イケメンだとかそうでないかなんてどうでもいい。わたしは相手が誰であれ、嘘の噂を流されたことに静かにイラッとした。そして目の前の彼女たちに問いたい、相手の見た目が良ければ好き勝手噂されても構わないのか、と。



2限が終わった休み時間、肩をトントンと叩かれて振り向くとクラスメイトの男子がニヤニヤしながら教室の後ろ扉を指差した。

「何…?」
「旦那様が来てるけど」

少しうつむき加減で扉に寄りかかる金田一の姿が目に入る。『旦那』は訂正したいところだけど、今更何を言ってもきっと無駄。男子には何も言わず扉まで駆け寄った。

「突然押しかけて悪い。ちょっと話したいことあってさ…」
「もしかして例の…」
「あ、知ってたか…」
「廊下、いこ」

出入りの激しい入口付近で話すと目立つ。余計あることないこと言われそうだと思ったので、廊下の窓際に移動した。窓にもたれた金田一は天井を仰ぎながらぽつりと言う。

「なんか、すげーことになってんな」
「びっくりした」
「…悪い。全部俺のせいだよな」

いつも明るくて元気なのにすっかりしょげかえっている。

「俺があそこで首突っ込まなければ、国見が俺と…なんて言われずに済んだのに」
「でも、あのままだったらわたし、何されてたかわからなかったし」
「そ、そうだよな!それだけは絶対…阻止したかった」

廊下を通る人のうち何人かはこちらにちらりと視線を送ってから、ひそひそ話。場所を移しても見世物になってしまうのは避けられないみたい。わたしがふっと息を吐くと、金田一は何度も頭を下げてきた。

「俺は後悔してはいない。でも…本当にごめん!」
「別に。…目立っちゃうからさ、頭上げて?あと声大きい」
「っと、そうだな。悪い…」

金田一は知っているのだろうか。やれ、イケメンではないだとか野獣だなんてひどいことを言われている事実を。むしろ今回の件は金田一の方が嫌な思いをするかもしれない、というかもしかしたら既にしているのかもしれない…

「あのさ、一緒にいたりしゃべったりしてると何か言われるだろうから、距離置かないか」
「別に、元からそんなに一緒にいないけど…」
「…そっか、確かにそうだよな。とにかく今回のことは本当…悪い。じゃあ」

いつもと違いこわばった、無理やりのような笑顔が胸にグサリと刺さって抜けない。あんな顔をさせてしまったのは、噂に傷ついたからだけではない。よく考えたらわたしはものすごく冷たい返しをしてしまったのではないか。罪悪感は脳裏から消えることなく付きまとった。授業を受けていても、読書をしていても、気づいたらあの瞬間の苦い笑顔に思考を支配されている。
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