金国♀シリーズ

□Vol.5
1ページ/5ページ

きっとこの時間なら、もうすぐ。

朝のホームルームが始まる数分前、教室から出て廊下のロッカーに寄りかかる。しばらくすると予想通りエナメルバッグを肩にかけ、上履きをつっかけた朝練帰りの金田一が現れた。深呼吸をしてから一歩前に。

「おはよう」
「お、おう…おは、よう…」
「…何、変な顔して」
「いや、その…」
「?」
「…何でもない。じゃあな」

手を挙げて軽く振ってから教室に入っていく姿を確認して、わたしも教室にすぐ戻る。時間にしてほんの数秒だけれど上出来かな。まだ心臓がドキドキ言っているけれど頑張った、と思う。

教科書を借りたあの日をきっかけに、挨拶は今までみたいに普通にできるようになった。ほとんど金田一からっていうのは変わらないけど、今みたいに自分から言うこともできるようになった。少しだけ積極的になったわたしを、金田一を含めきっと誰も気づいていない。

金田一は教科書について何も言ってこなかった。勇気を出した落書きは効果が無かったのかもしれない。まぁ、気づかれないなら気づかれないでいいか…と諦めることにした。いつか、自分の口で伝えればいいんだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ