twitterであげていたおはなし。

□モーニングコール
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王子様のキスで目覚める。


なんてロマンチックなこと、現実では起こらない。
布団の中から手を伸ばし、
アラーム音とは違う音が鳴り続けている携帯を手にとった。


「今日は10コールか。まあまあってとこだな」


電話の向こうのニヤニヤ顔が想像できる声。
わたしの朝はこんな風にして、幼なじみのクロの一声で始まる。



クロはバレー部の主将だから、朝練のために早起きしている。
身支度が済んで家を出る6時半頃に
毎朝電話で起こしてくれるのだ。


普通なら、親が起こすものだろう。
でも、うちの親ときたら
「鉄朗くんが起こしてくれるなら安心ね」
「親切な幼なじみに恵まれたなぁ」なんて言うもんだから
ますますクロは調子に乗る。
うちに入り浸り、リビングのソファを占領している姿を何度見たことやら。



「モーニングコール、やめるわ」


わたしのクラスに顔を出したクロに、突如宣言されたお昼休み。
入学してから約2年続いたモーニングコール。
さすがに、頼りすぎたのかも。
反省しながら彼に告げる。


「今までありがとね。明日から自力でがんばるよ」


クロは「おう」とだけ言うと自分のクラスに戻っていく。
がんばると数秒前に言ったにも関わらず、
大きな背中を見ているとその決意が揺らぎそうだ。


いつまでも、幼なじみのお守りをしていられないってことだよね。


その夜はなかなか寝付けなくて、何度も寝相を変えながら
やっとのことで眠りについた。
明日のことを考えないようにするのって案外難しい。




翌朝、わたしは全身に感じる揺れで飛び起きた。

「地震!?」

慌てて部屋中を見渡すと、いつも通り。
何も微動だにしていない。
おかしいな、と首を傾げていると
床に座り込んで笑いをこらえるクロの姿が目にとまった。


「お前、焦りすぎ。ちょっと揺さぶっただけなのに…」


ひーひー言っている彼を睨みつけながら、沸いた疑問をぶつける。


「なんで、ここに、いるの」
「おばちゃんに、起こしにきましたって言ってあげてもらった」


モーニングコールしない、って言ったじゃん、何で、と言おうと思ったら
心を読まれていたよう。
ニッと笑って飄々と言い切った。


「好きな女起こすなら、電話より、やっぱ直接だろ」


思いもよらない告白に面食らう。
まさか、好きとか言われるなんて思わなかった。
クロのことは大切だけれど、恋愛感情について考えたことはなかったから。


「お前、鈍感だから。こうでもしないと気づいてもらえないなんて、俺、カワイソー」


ぐっさりと胸に刺さる痛いお言葉。
でも、昨夜寝付けない時に感じた息苦しさよりも、ずっといい。
今、同じ気持ちかと言われたら即答はできないけど
多分、少しずつ彼の気持ちに寄り添える気がした。


「これからは、寝込み襲われたくなかったら、きっちり起きろよ」


それだけ言い残して部屋を出ていく。
並んで登校する日も、そう遠くないかもしれないな。

明日からも、わたしの朝は彼が運んで来てくれる。
ベッドから降りた一歩が、羽のように軽く感じた。

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