twitterであげていたおはなし。

□にたものどうし
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「お風呂の電気、消し忘れてるよ」

何気ない一言。
でも、その時はきっと虫の居所が悪かったんだと思う。
普段から愛想の良い方ではない彼だけれども、その時は一層眉をひそめ冷たく言い放った。

「消してくれたんでしょ、ならいいじゃん。言わなくても」

高校の同級生だった彼とは、つきあい始めてもうすぐ3年、一緒に住み始めて約半年だ。
同じ大学に進むことになり、キャンパスも同じだからと親には内緒で始めた同棲。
イケナイってわかってはいたけど
彼と一秒でも長く過ごしたいという欲望に負けた。
一人には広すぎる部屋を契約してはすぐにバレる。
だから、ごく一般的な1K。
平均より少し体格の良い彼と住むとなると手狭ではあるけれど、その分いつも彼を近くに感じられるのはいいところ。


生まれてこの方18年、家族以外の誰かと住むのはお互い初めてだから、ぶつかることもあった。
家事の分担はもちろん、帰宅時間の連絡の行き違いもあって。
それでも半年、仲良くやってきたつもりだ。
けど、目の前の彼は触れられない空気を醸し出している。


「大学で、部活で、何かあったの?」
「…」
「話してくれなきゃわからないよ」
「…うるさい」

無言の後の、拒絶の一言。
さすがにイラっときた。
テレビの前に座り込んでいた彼につかつかと近寄り
チャンネルを奪って画面を暗転させた。
彼は、ふぅっと重めのため息をついてジロリとわたしを睨む。


「勝手に消すなよ」
「話をしてるのに、態度が悪いんだから仕方ないでしょ」
「お前、しつこい。もう俺に構うな」


ぷいと背を向け、ベッドに潜り込んでしまった。
やり切れない気持ちを抱えながら、洗面所に髪を乾かしに行く。
ドライヤーの音だけ虚しく響く部屋。

ちょっとモメることはあっても、いつも日付が変わる前に解決して身を寄せ合って眠りについていた。
ケンカしたまま夜を過ごすのは初めてで、まずどこで寝たらいいんだろうという新たな問題が目の前に立ちふさがった。

ドアを開け居室を覗くと、さっきと変わらず壁を向いて寝ている彼の姿が目に入る。
心なしか、ベッドにはわたし一人分のスペースがあいているように感じた。
無意識か意識的かはわからない。
隣に寝ても、いいのかな。
だけど、さっきの言葉がまだじわじわと胸を締めつけるからやっぱりできないや。

オフホワイトのラグの上に横たわりクッションを枕にして目を閉じた。
9月の夜にしては少し気温が低い夜。
でもブランケットはクローゼットの中だし、探したら彼を起こしてしまう。
寝ることに集中しよう。
肌寒さも胸の痛みもいつのまにか忘れて、夢の底に落ちていった。


体全体に感じるほのかな重みと温もりで目覚めた。
時計を見ると午前6時、まだ外は薄暗い。
あれ。
わたしを包んでいるのはいつもくるまっている布団だ。
ベッドに目をやると、白地にミントグリーンのロゴが映える高校時代の部活ジャージを羽織って眠る彼がいた。
…きっと、夜中に起きた時にわたしに布団を譲り、ジャージを引っ張り出したんだろう。
例え一晩越しのケンカをしていても、
彼の気持ちはわたしから離れてるわけじゃない、と確信した。
でも「眠い」が口癖の彼を叩き起してまで仲直りをする勇気はなかった。


もう少しだけ、一人の時間が欲しい。


幸い、今日は1限から授業がある。
自転車を使わず大学に行き、図書館でレポートを書けば時間は潰せる。
どうしても家にいると彼と話したくなってしまうから、
一人の時間を見つけ、課題やレポートに手を付けるのが習慣になっていたわたし。
キャンパスまでは徒歩だと少し遠いけど、頭を冷やすには何十分だって歩ける気がする。

いつもよりのんびりと身支度をして、玄関で靴を履いても彼の起きる様子はない。
これで、いいんだ。
自分に言い聞かせてドアを開け、朝の空気を吸い込む。
そして振り返ると、ドアにしっかりと鍵をかけた。
決意が揺るがないように。
帰ったら、ちゃんと仲直りしていつもの二人に戻ろう。
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