twitterであげていたおはなし。

□ツッキーの誕生日を祝うお話(社会人設定)
1ページ/2ページ

何ヶ月も前から、決めていた。

「年に2日の個人別休日は、絶対休まないといけない日だからね。
有給よりも優先順位が高いから」

上司の話に相槌を打ちながら、勤怠システムの申請画面を開く。
真っ先にクリックした日付は彼の誕生日。
選択肢から「個別休」を選んで確定した。

入社して休日に関する説明を受けた時から、わたしがロックオンしていた、9月27日。
他の人と被りませんように、と祈りながら、この日を待っていた。
そして、試用期間の3ヶ月を過ぎ、正社員になった今。
先程の上司の説明を経て、晴れて休日申請ができる身になったのだ。


高校時代、彼は宮城の強豪・烏野高校でバレーボールに勤しんでいた。
大きな大会の翌日や体育館が使えない時しか休日にならない。
よって誕生日なんて、日付についてくるオマケ程度。
もちろん優しい先輩や仲間達は、練習後に色々と奢ってくれていたようだけど。
練習、皆からの奢られタイム、と来て、ようやく3番目にわたしの番が回ってくる。
とは言っても、一緒に帰るぐらいで、特別なことはしていない。

お金もないし時間もないから、
あらゆる手段でおめでとうを伝えた。
朝一の電話。
学校で会って直接。
授業の合間に作って送った、かなりポップなお祝いメール。
「そんなことより授業に集中しなよ。ホント、バカなんだから」と言われたけど
実はツッキー、メール保護してるんだよ、と山口くんが教えてくれた。
(よく考えたら、山口くんはどうやって知ったのだろうか。今では疑問である)

プレゼントはいつも手作りのお菓子で、高3の時は大好物のショートケーキに挑戦した。
クリームがちょっとゆるいし、デコレーションもお店のようにはならなかった。
それでも、小さめとはいえ1ホール食べきってくれた。
日頃、西谷先輩に「もっと食え!」とどやされてる少食な彼なりに
精一杯頑張ってくれたかと思うと、胸に熱いものがこみあげた。

大学時代も彼はバレーボール一色、しかも東京に行ってしまったから4年間の遠距離恋愛は正直キツかった。
新幹線代が厳しい時は、狭い夜行バスに揺られて目指した華やかな街。
ある冬、バスターミナルに到着する直前バスの窓から外を覗くと、カーキのモッズコートのポケットに両手を突っ込み、白い息を吐きながら宙を見つめる君がいた。
わたしのこと考えてくれているのかな、なんて思ったりして。
バスを降りて久しぶりの対面となっても、クールな彼は満面の笑みを見せることはない。
ただその代わり、人気のないところに差し掛かるとすぐ荷物を放り出して無言で抱きしめてくれた。
今でも鮮明に脳裏に浮かぶ、特別な記憶。

そして今、都内の会社に就職したわたし。
彼は隣県の”横浜”という、大きくてかっこよさげな街(わたしの勝手なイメージだ)に就職先が決まり会社の近隣に住まいを移した。
東京と横浜。
少しだけ距離が近づいたけれど、平日の夜でも、会おうと思えば会えなくもないのが逆にもどかしい。
存分に彼を独り占めできる週末が、待ち遠しかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ