twitterであげていたおはなし。

□烏野1年女子に恋しちゃった及川さんのお話@
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ドゴッという衝撃がわたしを襲う。
そこからもう、意識はない。

目が覚めると、ベッドに横たわっていた。
起き上がろうとすると、左腕がジンと痛む。
まず、湿布の上を包帯でぐるぐる巻きにされた肘下。
そして次に、ベッドの横で心配そうな顔の男の人が目に入った。

あれ、これって噂の「オイカワサン」じゃないの。


今日、放課後の体育館に足を運んだのは、友達に誘われたから。

最近強くなったと評判のバレー部が練習試合を行う相手。
それは県内有数のバレーの強豪・青葉城西高校とのこと。
わたしはバレーにも青城にも興味はなかったけど、
友達がどうしても「見たい人」がいるのだと言って、付き添いを頼み込んできたのだ。

「『あの』及川さんが来るんだよ!絶対見ないと!」

キャットウォークの手すりに寄りかかり
たった今始まったばかりの試合を眺める。
周りを見ると、ただの練習試合なのに部外者がかなり見学に来ていた。
それも、大半は女子。

試合のメンバーをよく見たら、同じクラスの日向がいた。
そっか、バレー部って言ってたな。
わたしは、選手の中でも一回り小さい背中に声をかけた。

「日向、がんばってね」

キョロキョロしてから、上に居るわたしに気づいた日向は
満面の笑みでピースをしながら、「おう!」と返してくれた。
その後坊主の先輩に
「お前、女子の声援うけてるとか、なんだコラ」と絡まれてたけど。
知っている人が出ていれば、とりあえず試合に飽きることはなさそう。

なんて思っていたわたしの予想を裏切り、試合は想像以上に白熱して、素人目から見ても面白かった。
特に青城側で強烈なサーブを打つ人がいて、サーブだけで何点ももぎ取っていた。
友達曰く、あれが「オイカワサン」らしい。
あんなサーブ、当たったら無事ではいられなさそう。

…思い出した。
まさにそのサーブを烏野の選手がレシーブし、
流れ弾がわたしに直撃したのだ。


「ごめんねー?」

目の前の人はやわらかな口調で謝罪をした。
友達が騒ぐだけあって、確かに整った顔立ち。
口調や見た目からは、あんな恐ろしいサーブを打つ人だなんて信じられない。
白いジャージが眩しいその人はゆっくりと話し出す。

「烏野のリベロ君があんな風に弾くなんてこともあるんだ、って思ってたらさ、ボールが飛んでった先に君がいるんだもん」

「焦ったよ。頭や顔に当たっていたら、ゴメンじゃすまなかったかもしれないし」

「でも、腕折れたりしてなくてよかった。利き手は右、かな?」

初対面でこれだけ一方的に話されて、しかもケガさせた張本人とくれば、
普通は嫌悪感を抱くものだろう。
それなのに、軽妙かつ穏やかな語り口に聞き入っているわたしがいた。

オイカワサンは、そろそろバスに戻らないと…と言うと
スポーツバッグから取り出したノートを破り、ペンで何やら走り書き。
うん、と呟いて紙を差し出した。

「腕のこと、何かあったら連絡してきて。お詫びもしたいし、ね?」

連絡先と、言い表せないあったかい気持ちを残して彼は去っていった。
これが、「オイカワサン」とわたしの出会いだった。


その日、帰ってすぐに教えてもらった連絡先にメールをした。
クラスの男子でさえろくに電話やメールなんてしないのに、
他校の男の先輩にメールをするなんて、何だか不思議。

『こんばんは。今日はご心配をおかけしました。
次に試合を見る時は、ボールに気をつけます』

返信が来たのは、日付が変わる頃。
着信音に反応し、いそいそと受信メールを確認する。

『こんばんは✩申し訳ないけど、しばらく我慢してね。
腫れが引いて湿布と包帯がとれたら、何かごちそうしたいんだけど。
甘いものは好きかな?』

その後のやりとりで、毎週月曜が部活のない日だから、
来週か再来週あたりの放課後に時間をちょうだい、と言われた。
これってデートの約束、なのかな?
気分が高揚して寝付けない。
寝る前にメール、返さなければよかったかもしれないと後悔。

翌日以降、オイカワサンは数日ごとにケガの具合を尋ねてきた。
本気で心配してくれてる。きっといい人なんだろう。
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