twitterであげていたおはなし。

□烏野1年女子に恋しちゃった及川さんのお話@
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2週間後の月曜日、放課後。

わたしは青葉城西高校前のバス停にいた。
自分の学校にもまだそんなに慣れていないのに、
他校の、しかもこんなに人が多いところだから、余計緊張する。
白ブレザーの中、たった一人濃紺のわたしは浮いていた。

「待たせちゃったかな?ごめんね」

いたたまれない気持ちを救ってくれたのは、
遠くから駆け寄ってくるオイカワサンだった。

いかにもお坊ちゃんというような白ブレザーの制服姿。
この前は座っていたからわからなかったけれど、すごく背が高い。
こんな目立つ容姿の人と並んで歩くなんて…
萎縮しているわたしに、爽やかな笑顔が向けられた。

「いこっか」

その一言と同時に、ごく自然に手を取り歩き出す。
きれいな顔立ちから、もっと細い指やすべらかな掌を想像したのだけれど、
オイカワサンの手は少しごつごつしていて、大きくて、力強かった。
手汗が出ないように、と祈るばかり。

10分ぐらい歩くとオープンテラスのカフェに着いた。
オイカワサンはすぐ、店員さんに話しかけに行く。
わたしは一人、外の景色を眺めていた。

しばらくして。

「ハァイ。お待たせ」

その声に振り返ると、オイカワサンは3段重ねのアイスを両手に持って
優しく微笑んでいた。

「本当は席空いてるし、ここはパフェがオススメなんだけど…
ここ、青城生よく来るんだよね。
だから、今日はとっておきの場所に連れて行ってあげる」

アイスを受け取り、彼の後ろを歩く。
フライングして、最上段のチョコミント味を舐めながら
さわさわとそよぐ木々の緑、その中を進む白い背中を見つめた。

カフェのすぐ近くにある小さな公園のベンチ。
二人で腰掛けて溶けかけのアイスを堪能する。
なんだかんだ結構歩かされたから、少し暑くなってアイスの冷たさがちょうどいい。

「一人になりたいなぁって時にここに来るんだよ」

そんな場所に、一緒に来てよかったんだろうか、と思いつつ
オイカワサン自身のことを、もっと聞きたい。
次は何を話してくれるのかな、なんて期待する。

「あの、オイカワサンは…」
「ねえ、それやめない?」

どういう意味かわからず、
ワッフルコーンの最後の一口をもぐもぐしながら考えていると。

「そんなよそよそしく呼ばれたら悲しいなぁ。
一緒にこうやってアイス食べた仲なんだし」
「すみません。でも、先輩なので。及川さん、じゃダメなんですか?」

あはは、と声を上げて笑われてしまった。

今までは、得体の知れない人を呼ぶような「オイカワサン」だったけど、
さっきのは少し慣れた「及川さん」だったね、と言いながら。
自分では違いがあるとは思えなかったけど、
及川さんがそう聞こえてるなら、きっとそうなんだろう。

「本当、いい子だね。俺の目に狂いはなかったよ」

笑いがおさまったかと思ったら、空を見上げながら呟く及川さん。
それってどういう意味ですか?と聞く前にあっさりと答えが返ってきた。

「嘘みたいって思うかもしれないけど、君に一目惚れしたんだ」

誰か、今すぐわたしの頭を殴ってみてくれませんか。
思いもよらない告白に、夢ではないかと疑いたくなる。

「試合始まった時から、可愛い子いるな、って思ってて。
烏野のチビちゃんに声かけてるの、妬けたよ」

「ボールが飛んでいった時一瞬、ラッキーって思った。不謹慎だけどさ。
謝りにいけるじゃん?まさか倒れるとは思わなかったけど」

「保健室で連絡先を渡した時だって、そのまま捨てられたら
もう会えないんだよなって、そればっかり考えてたよ。
だから、メールが来た時、本当に嬉しかったんだ」

保健室での最初の会話を思い出す。
あの時と同じように、ゆっくりと丁寧に話す姿。
この人といるとすごく、居心地がいいんだ。

「えーと…ありがとうございます」

突然の告白に面食らい、かなり間が空いてからお礼を言う。
ニコニコしながら、わたしの次の言葉を待つ及川さんは
餌をちょうだいと飼い主にアピールする子犬のようで、可愛い。

「わたし、及川さんのことわかりません」

ゲーン!という効果音がぴったりな顔をしている。
こんな顔もするんだ。

「でも、もっと知りたいなって思ってます。
それに及川さんといるとホッとするから。一緒にいたいなって…」

ありのままを伝えたら、拒否する時間も与えない早さで覆いかぶさってきた。

「わからないなら、教えてあげる。これからゆっくり、全部。」

初めて感じた男の人の重みだけど、
背中に回された腕には安心感しかない。
それはきっと、及川さんだから。

「俺の彼女に、なってくれるね?」

はい、と答えた後も、なかなか体を離さない。
少なくともあと1週間は会えないからね、と言いながら。

及川さんの体温と香りを身に纏った帰り道。
星がいつもよりずっときれいに見えたのは
及川さんが魔法をかけてくれたから、なのかもしれないな。
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