twitterであげていたおはなし。

□烏野1年女子に恋しちゃった及川さんのお話A
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パスポートも持っていないのに、1等の海外旅行が当たった。

及川さんとつきあうことになったわたしを例えるなら、これが一番しっくりくると思う。
急に与えられた豪華な賞品に、何も準備ができていない状態というか。

何を話せばいいのか、どう振る舞えばいいのか。
右も左もわからない、不安だらけの旅。
経験も知識も入っていない、空っぽのトランクひとつのわたし。

でも、いざその胸の中に降り立ったら安心感に包まれるんだ。
そして、一秒ごとに変化してゆく空や海みたいに、色々な表情を見せてくれる。
そんな及川さんという未知の国に、わたしはいつもわくわくしっぱなしだ。


及川さんとのおつきあいが始まって1ヶ月が経った。

毎週月曜日は、放課後に待ち合わせてデートに繰り出す。
話題の映画を見たり、甘いものを食べに行ったり。
丸一日でなくても、数時間彼を独り占めできるなんて贅沢だと思った。

ある夜、部屋で勉強していると彼から着信があった。
おそらく部活終わりだろう。
もしもし、と電話に出るやいなや、悲痛な声が流れてくる。

「ごめーん。次の月曜、部活になっちゃったんだ」

強豪だし、休暇を返上して練習することもあるだろう、ぐらいにしか思わなかった。

「そうですか、残念ですね。仕方ないです」

及川さんがわたしを「いい子だけどちょっとつまらない」と言う所以は
こういったあっさりと聞き分けのいいところを指しているんだと思う。
以前も、電話やメールができなかったり遅れたことを詫びる彼に、
今と同じように伝えると
「もっと寂しがってくれてもいいのに」と言われたから。

「実はね、同じ体育館を使っているバスケ部が、
火曜に複数の学校を招いて貸切で対外試合をやることになってさ。
だから、急遽月曜に部活やって、休みを火曜に変更することにしたんだ」

ということは、会うのを火曜日に変えたいってことか。
火曜は…委員会が入っていたかも、なんて思っていたら
及川さんは思いがけない誘いをぶつけてきた。

「月曜、俺のために空けておいてくれてるよね?
だったらさ、うちの学校に練習見においでよ」


迎えた月曜日。

ここに来るのは、及川さんとつきあうことになったあの日以来だ。
そしてあの日と同じように、視線を感じながら校門の前に立つ。
まもなく、Tシャツ姿の彼が現れた。
片手には制服のブレザーを抱えている。

「このままだと、他校ってバレバレだから。
そのブレザー脱いで、こっち着なよ」

そこまで考えてくれていたんだ、と感心していると
わたしにはかなり大きいサイズの白ブレザーを肩にふんわりと掛けてくれる。

「ボタン留めちゃうとブカブカなのすぐにわかっちゃうし、
肩に羽織るだけにしておくこと。いいね?」

自分でも考えて、部外者感をあまり出さないようにと
烏野のリボンを外し第一ボタンを開けてみた。
スカートはブレザーからほんの少しのぞく程度だし、そんなに違和感はない。
なんちゃって青城生の誕生だ。
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